34・パレルモ散歩
朝に昼にとほどよく飲んでほどよく……以上に歩いて疲れた父ちゃんには、このあと昼寝が必要だった。 「みんなも休んでいけばいいのに」 そう言う父ちゃんを残し、我々は再び街に出た。 LIBERTA!! せっかくなので、再びマッシモ劇場に立ち寄った。 …ってことは? 階段まで行ける!! さて皆さん。 そう、このシーン!! ゴッドファーザーPartVより ゴッドファーザー PartVのクライマックス。長男の舞台を鑑賞に来たマイケル一家。 そして、マイケル暗殺を企てる一味。 しかしその銃弾は……… ゴッドファーザーPartVより マイケルを突き抜けて娘のメアリーに。 「 Dad…………………?」その一言を最期に、倒れるメアリー。 ゴッドファーザーPartVより 事態を飲み込み、己の運命に絶望するマイケル。 ゴッドファーザーPartVより そう、すべてはこのマッシモ劇場の階段での出来事だったのだ。 で、真似する我々。 「Dad………?」 レッドカーペットがないのが残念…… このマッシモ劇場の、マクエダ通りを挟んだ向かいに、魅惑の小道がある。 けっして車は通れなさそうな狭い石畳の道を歩くと、そこらじゅうにトラットリアがあった。 このあたりは観光客がよく通りかかるところなのか、そんなトラットリアには呼び込み係のニィニィがいて、通りかかるたびににぎやかに声を掛けてきた。 ごめん、ご飯はもう食っちゃったよぉ。 そう言いつつ、道を尋ねてみる。 このあたりの人たちにとっては、やはり英語を話せるというのはひとつのステイタスなのだろうか。 Both un poco. という、まことに意味不明の返答をしたのだった。 このスージィグヮーでも、当然ながら英語を咄嗟に駆使できないから、英語で!という声に負げずに拙いイタリア語で道を尋ねると、 「ああ、それだったらこの道をまっすぐ行って、あそこで左に曲がればいいよ!!」 なんとも優しいパレルモの人たち。 その彼のおおせに従ってテクテク歩くと…… クティッキオのプーピ劇場。 観光名所などそっちのけで、こういうスージィーグヮーで、人形劇をのんびり鑑賞……ってのも面白そうだなぁ。 大通りに戻ると、そこは再びマッシモ劇場だった。 その前に、休憩がてら立ち寄ったのがここ。 カテドラーレ。 もっとも、その当時は今とは違う姿だったわけで、内部もまた、18世紀後半になって改装されたもの。 有料の宝物庫が見どころらしい。 中身は単に、豪華ででっかい古風な教会って感じだった。 「ちょっと休憩」 にはうってつけの場所なのだった。<それってバチあたりなのでは?? さらにテクテク進むと、やがてヌォーヴァ門にたどり着く。 名所ばっかり行ってても慌しいだけ…と思いつつも、 「パレルモへ行ってモンレアーレを見ないのは、驢馬の旅の如し」 という箴言があるそうな。 日光はいまだ見に行ったことがない僕ながら、ここまで来ている以上驢馬になりたくないので、明日観に行く予定にしていた。 ところが、広場にあるというからすぐに見つかるかと思いきや、これが思いのほか広い広場で(なにしろ広場だから)、隈なく歩いて見つけ出すのは絶望的に見えた。 なのでメインストリートに面している花屋さんに尋ねてみることにした。 すると、花屋のご主人と店員さんは店の外まで出てきてくれて、 「ほら、あそこにある看板が見える??右側の。あそこでモンレアーレ行きのバスに乗れるよ!」 二人がかりで教えてくれた。 ところで切符はどこで買ったらいいんですか?? 「そこのバールで買えるよ!!」 またしても二人がかり……… ありがとうございます!! 「 Prego!」なんかホントに…………いい国だなぁ。 彼らが言う「そこのバール」が、僕が思ったそこのバールかどうかわからなかったので(実はどこでも買えるらしい)、一応確かめてみるため、バールに入店しようとすると…… バールから出てこようとした人に、冗談込みながら思いっきり「ビビったぁ」というポーズをとられてしまった。 かなり危なく見えるの?? 周り中がスリかも!!と心配して貴重品関係保護の装備をしているというのに、まさか現地の人に引かれてしまうとは!! 気を取り直し、あくまでも紳士としてレジのおねーさんにバスのチケットのことをうかがってみた。 さあ、これで明日の準備は完了だ。 入場料を払い、セキュリティチェック兼の入り口を通って2階に行くと……… パラティーナ礼拝堂!! そんな圧倒的な荘厳さのもと、ただただ立ち尽くすオタマサ。
たしかにこれは、立ちすくむ…ってくらいの見事さだ。 このキンキンキラキラパラティーナは、日本で平清盛が台頭し始めた頃に造られた。 なんであれ、その元となっている当時のシチリア王国が、この地中海世界で強大な力を有していたのは間違いない。 これは父ちゃんにも見せてあげたかったなぁ……とは思いつつ、今日ここまで来ていたらきっとシボーしていたことだろう。 その後、すでに触れたとおりバッラロ市場で買い物を済ませ(ノルマン王宮からバッラロ市場に向かう道が、ややデンジャラスチックに人通りが少なくてスリルがあった)、再び休憩をするため、ジェラテリアに寄ってみた。 場所は、ヴッチリア市場の入り口、サン・ドメニコ広場。 「ナガートモ、ナガートモ!!」 …お、ついに出たか、カルチョ・イタリアーノ。 ジェラートには何種類もあるけれど、是非これを!と思っていたのはピスタキオ。 さっそく、ブリオッシュに挟むこっちふうのスタイルで注文すると…… 彼もまた、自らがイケていると信じ続けて早25年くらい……に違いない。 やっぱどんな職業でも、「キメポーズ」があったほうが絵になるなぁ。 ところで、ジェラートという言葉はすでに日本語になりつつある。ただ、僕たちはずっと、ジェラートとアイスクリームは似て非なるものだとばかり思っていた。 その発祥の地はシチリアだそうで、しかもシチリアのジェラートはとんでもなく美味しい!!というのがもっぱらの評判だ。 たしかに美味しい。 すみません、パレットくもじのハーゲンダッツのほうが美味しいような気がするんですけど…………。<ただちに沖縄に帰りなさい。 それはともかく。 多すぎッ!! ブリオッシュで挟んだお味は「なるほど…」的新しい味覚で面白い。が、ひとつを二人で食べてもまだ多い。 こんなに大量で、しかもテーブルについて食べていたというのに、お会計は3ユーロもしなかった。 これでもリラの頃に比べればウンと高くなったというのだから、昔はどんだけ安かったんだ?? 安いといえば、今宵の夕食。 「生シラスを生で食べたいッ!!」 といううちの奥さんの本能的欲求に屈し、ついに部屋食と決めた今夜の夕食。 こんだけ買っても、リストランテやトラットリアで食べる一人分くらい………。 おまけに、本来あるはずのソファは3つめのベッドの仕切りになっていて、テーブルはテレビ台になっているため、3人横に並んでボードで………。 パジャマ姿ですっかりくつろいでいる父ちゃん 什器も何もかも含め、なんだかパレルモまで来て貧疎なことこのうえないように見えるものの、食材のほとんどは、日本で買ったらそれどころじゃなくなるのは間違いない。 ネオナータ!! 美味い美味いと言いながら3人でたっぷり食べたものの、それでも200グラムってけっこう多い。 シチリアのタコは、味のほうもなかなかやる。 でまた、こういう料理でオリーブオイルと共に欠かせないのがレモン。 シチリアにレモンをもたらしてくれたアラブの人たちよ、ありがとう!! そして、チーブスで買ってきた惣菜、カポナータ。 豚肉が入っていない酢豚だった。 そんなこんなで、買ってきた食材はほぼすべて堪能できたものの、唯一期待はずれのものが。 カルチョーフィ。 というか、さすがに茹でたものをただ食べるってものじゃないよなぁ、見るからに。 というわけで、チープで豪華な、リラックスしたディナーなのだった。 旅行準備中、ホテルを物色していたとき、パレルモのホテルには、3つ星クラスであってもキッチン付きのコンドミニアムタイプがあることを知った僕は、「旅行に行ってまで料理しなくったっていいのに…」と思っていたんだけど、たしかに市場であの数々の魅力溢れる食材を見たら、 「キッチンが欲しい!!」 って思うわなぁ。 再びジジ・マンジャを訪れてあれもこれも食べたかったし、食後にマルサーラを飲んでみたかったし、あの店この店でどれもこれも食べたい…と願っていた僕ではあったものの。 が。 翌日に起こることなど何も知らずに、メッシーナのビールを飲んでは「ウメェ♪」と言ってた僕なのだった。 できることなら、1ケース持って帰りたかった……。 |