水納島の野鳥たち

カツオドリ

全長 80cmほど

 アジサシと同じような理由で鰹鳥と呼ばれるこの大きな鳥は、県内では宮古島から八重山方面が主生息域で、毎年夏前にやってきては、どこかの無人島あたりで繁殖し、秋になると帰っていくという。

 そのような繁殖地が無く、彼らが大挙渡って来ることもない本島周辺では、カツオドリはかなりのレアバードだ。

 だからといってまったく会えないわけではなく、ダイビングポイントに停泊中、ボート脇を悠然と飛び去って行くこともある。

 そんなカツオドリが、いきなりビーチに現れたことがあった。

 たまたま海水浴をしにきたのか、羽休めに来たのか、どこかを傷めて養生しにきたのかは不明だったけれど、遠めに見ても存在感たっぷりの大きさに驚いたものだった。

 ということもまれにあるカツオドリが、再びビーチに、それも砂浜でウロウロしていたこともあった。

 2015年9月のことで、体力を失ってしまっていたのか、ケガをしていたのか、早朝から桟橋脇で力なくうずくまっているカツオドリに、船員さんほか島のみなさんが気がついた(当時は連絡船の母港が水納島だった)。

 このままでは、このあと訪れる大勢の海水浴客たちにいいおもちゃにされてしまうのは必至。

 なので桟橋にいた船員さんたちや先生方、ジュンコさんたちは心配そうに見てはいたものの、いかんせんカツオドリはでかく、弱っていそうだからといってまったく抵抗しないわけではなく、おいそれと抱えあげられるものではない。

 そこで白羽の矢が立ったのがオタマサである。

 なにしろチャボやアヒルは飼っていたし、でっかいインコ・オウムもお手のものとくれば、きっとカツオドリもなんとかしてくれるに違いない。

 おそらくこれがダチョウやヒクイドリ、はてはギャオスであろうとも、白羽の矢が束になってオタマサに飛んできたのは間違いない。

 というわけでジュンコさんが呼びに来てくれて、オタマサ出動。

 誰もが手を出せなかったカツオドリをオタマサは「あらよっ」とばかりに抱え上げ、とりあえず人が大勢訪れることはないカモメ岩の浜へと移送したのだった(抵抗するカツオドリに噛まれて流血したらしい)。

 噛まれてもいささかの躊躇もなく抱え上げるオタマサを見て、当時の船長カネモトさんはつぶやいた。

 「さすが…。」

 何も知らないままカメのエサ採りから帰ってくるとそういう話になっていたので、桟橋でダイビングの準備をしなきゃならない時間になっていたにもかかわらず、カメラを持ってさっそく現場へ急行。

 するとカツオドリは、力無さげに砂浜にたたずんでいた。

 ところがしばらくすると、カツオドリはヨロヨロと立ち上がった。

 だんだん力がみなぎってきたのか、それまでただ眠りこけていただけなのか、さらには翼を広げて羽ばたく動作も。

 やっぱでかいわ、カツオドリ!

 まさかの羽ばたきだったので、画面に収めきれなかった…。

 その日の夕刻、オタマサが様子を見に行ってみると、すでにカツオドリの姿はなかったという。

 元気になって、再び大空へ飛び立っていったのだろうか。

 海岸からジッと見つめていた彼方の海へ、彼が無事に旅立てたことを祈ろう。

 その翌年。

 同じく9月のこと、台風接近前で雨模様の天気のなか、桟橋で朝のダイビングの準備をしていると、1羽のカツオドリが舞い降りてきた。

 まだ若鳥らしきこのカツオドリ、もともとの生息域が人間社会とは無縁ということもあるのだろう、ヒトへの警戒心がほとんどない。

 桟橋脇に停めているボートの近くにいるものだから、水面からそばに寄っても…

 もちろんマリンジェットもそばを通るし、ビーチには大勢の海水浴客がいるにもかかわらず、この泰然自若ぶり。

 そうそうあることではないから、数日でも居着いてくれれば…

 …という願いも虚しく、翌日は台風の大時化に。

 さすがのカツオドリも、どこかへ退散してしまったに違いない…

 …と思いきや。

 台風一過で迎えた2日後には、早くも桟橋上にその姿が。

 そしてその翌日の朝には…

 …桟橋の上で休憩していた。

 水面にいるときと同じく、桟橋の上でもいくらでも近づかせてくれるカツオドリ。

 ちょうどうちのボートが出航する際に通りかかるところで羽を休めていたから、ゲストにご案内しつつ桟橋を通過してポイントに向かった。

 すると…

 ポイントに停めた当店ボートのすぐそばに、カツオドリが飛んできた。

 やっぱ羽を広げるとカッコエエわ、カツオドリ。

 台風一過とはいえまだまだ強めの南風をうまく使って、ホバリングするかのようなフワリとした舞い方で接近したかと思うと、彼はボートのすぐそばに着水した。

 ホントに「そば」ですから。

 こんなに近くにいてくれるものだから、チャンスとばかりに撮ってみたのが↓これ。

 本邦初!…かどうかは知らないけど、カツオドリの水面下写真。

 素潜りして真下まで来ると、気になるのかカツオドリが顔をつけて海中を覗きこんでいるところを撮ったもの。

 このままずっとカツオドリ君と遊んでいたいところではあるけれど、ゲストをほったらかしにしておくわけにもいかない。

 もっとも、この時のワタシはスノーケリング担当だったので、その後もずっと観つづけることはできた。

 ボートの近くに浮いてはいても、風が吹いているから少しずつ離れていくカツオドリ。

 すると風をうまく利用してまたフワリと優雅に舞い上がり、飛び立ってからまたボートの近くに戻ってきた。

 それを2度ほど繰り返し、またフワリと舞い上がってボートの近くに着水する…

 …かと思いきや!

 ボートに舞い降りてるし!

 うっかり着地しちゃったってわけではなさそうで、籠の中の止まり心地が良かったのか、その後すっかり落ち着いてしまったカツオドリである。

 でもいくらなんでもこんなところに長居はしないだろう…

 …と思いきや。

 それから小一時間経って、ダイビングをしていたゲストがボートに戻ってくると…

 カツオドリとご対面。

 スノーケリングを終えて戻られたゲストも…

 カツオドリとご対面。

 こういうときに「持っている」オタマサはご対面できないのだろうなぁ…

 …と思いきや。

 無事にカツオドリとご対面。

 結局みんな間近で見ることができたのだった。

 しかもカツオドリは、なおも居心地よさげに籠の上に止まり続けている。

 とはいえダイビングを終えた今、我々は桟橋まで戻らなければならない。

 いくら物怖じしない泰然自若バードといえど、走るボートに居続けるなんてありえない…

 …と思いきや。

 桟橋に着くまでずっと居座ったまま!

 驚かさないようゆっくりボートをを走らせたわけではなく、むしろ飛び立つ姿を見たかったからフツーにスピードを出して戻ってきたというのに、うまくバランスをとりながらずっと籠の中のボードに止まったままのカツオドリなのだった。

 そしていつの間にやら、みなさんとの会話に加わっていそうなほどの親密度。

 このあとみなさんがボートから降りても、まだ籠に止まったままだったカツオ君だったのだけど、頻繁にジェットスキーが傍を通るために横揺れが鬱陶しくなったのか、午後になって桟橋に来てみたら、彼の姿は消えていた。

 この日はあいにくのお天気で、気象だけを見れば陰々滅滅といった1日だったところ、カツオドリのおかげでなんだか妙に陽気でゆかいな時間を過ごすことができたのだった。

 その後カツオドリとの出会いは、先に紹介したボートそばをすれ違ったときだけだったのだけど、今年(2023年)3月、再び羽を休めている姿を防波堤の上に認めた。

 あいにく北寄りの風に向かって佇んでいるものだから、桟橋から見ると背を向けた状態のため、特徴的な白いお腹や脚の色が見えない。

 でもこの嘴を見れば、どんなうっかり八兵衛さんでもカツオドリであることがおわかりいただけるだろう。

 羽休めで休憩しているように見えたカツオドリは、しばらくすると…

 羽を広げかけた!

 さらに見ていると…

 羽を広げた!

 広げれば羽の端から端まで一尋はあるカツオドリ、やっぱでかいわ!

 羽を広げては閉じ、広げては閉じ…ということを幾度か繰り返すのは、羽ばたくタイミングを計っているのだろうか?

 すると…

 飛んだ!

 そして大きな翼を羽ばたかせて防波堤をグルリと回ったあと…

 カツオドリは本島方面へと飛び去って行った。