全長 30cmほど
街中で暮らす方々にとって、ハトと聞いて思い浮かぶのはお寺の境内や駅前の地面に群れ集まって「プルップゥ…プルップゥ…」と鳴いている様子かもしれない。
ヒトの存在など意に介さず、むしろエサをねだるように集まっているこれらのハトは、一般的にドバトと言われる種類だ。
ヨーロッパ方面を原産地とするカワラバトという種類の習性を活かし、欧州をはじめとする各地の人々が長年かけて品種改良して生まれた鳥なので、種名ということになると正しくはカワラバトということになるのだけれど、ここではわかりやすいドバトにしておく。
日本には遅くとも遥か平安の昔に飼育用としてもたらされているようだから、紫式部も光る君へ思いを巡らせていた合間に、「プルップゥ…」と鳴き真似をしていたかもしれない。
大昔の戦時には伝書鳩としても大活躍したドバト、高度成長期の日本ではこのドバトを飼育する大ブームが起こったそうながら、今では「ハトを飼っている」というといささか胡乱な目で見られる可能性が高い。
沖縄本島にもドバトは数多くいて、ヒトが集まるところでおこぼれ目当てに集まっていることも多いけれど、水納島には定住しているドバトは1羽もいない。
水納島で観られるハトといえば、日本在来種ということになっているキジバトだ。
正確にはリュウキュウキジバトという亜種らしいけれど、ややこしいのでキジバトということにしておく。
一般的にキジバトはドバトに比べて遥かに警戒心が強く、畑でエサ探しをしている際などに注目を寄せると、嫌がってすぐに逃げてしまう。
散歩やジョギングをしている際、キジバトが沿道にいるところに通りかかると、慌てて飛び去って行く。
その姿はまさしく、リアル「鳩が豆鉄砲を食らったような顔」。
ところが、我が家は日常的に飼い鳥を日中室外に出していることもあってか、庭にキジバトがやってくるのもザラで、我々が部屋にいるときでもデッキの上を我が物顔でウロウロ歩きまわっていることがよくある。
飼い鳥の運動用に置いてある鳥用ジャングルジムに止まり、オツに済ましていたりもする。
人目をさほど気にしないから、屋根の上でオスがメスに迫っていたりするかと思えば、幼鳥といっていいほどの若鳥が自分の縄張りであるかのごとく庭を歩いていたこともあった。
これくらい幼い場合、近くに親鳥がいそうなものだけど、巣立つ直前に巣から落っこちたのか、親に不幸があったのか、それともまったくのうっかり八兵衛なのか、いずれにせよまだ自立しているとは言い難い段階だ。
そのためかいつもお腹を減らしていて、何かないか何かないか、と庭をウロウロしていた。
ナリが小さいからカメさんたちの柵内への出入りも自由で、ガメ公が活動している夕方に柵内に入ってはガメ公に追われまくり、当時いたミニラの柵に入ってはカメ用の水を飲んでいるキジバトチビターレ。
ひもじそうなキジバトチビターレを見るに見かねたオタマサは、当時庭で飼っていたチャボの餌をそっと分け与えてやった。
すると味をしめたキジバトチビターレは、我々が庭を歩くたびに期待のマナザシを向けてくるようになった。
エサなど何も手にしていなくとも、ちょいと呼びかけると駆けつけてくるほどだ。
そしてついに、こんなことができるようになってしまった。
面白いけど、野生のキジバトにとってけっしていいことではないに違いない。
だからといって、放っておいたら飢えてしまいそうだし、他所へ行けばカラスに襲われそうだし、もう少ししたらサシバも渡ってくる季節でもあった。
実際サシバが滞在している季節には、被害に遭ったキジバトらしき羽毛が路上に散乱していることがちょくちょくある。
キジバトチビターレが生き延びる道は険しい。
その2年後のこと。
春の陽気に包まれた4月のある日、ホシガメたち用の水入れから、なにやらバシャバシャという異音が。
カメが暴れているのだろうか?
そうではなかった。
キジバトが水浴びをしていたのだ。
適度に日を受けて温かくなっている溜め水は、思わずババンババンバンバンと口ずさむほどに心地良かったことだろう。
それにしても、フレンドリーを通り越して馴れ馴れしくさえあるコヤツ、もしかするとその2年前の若鳥だったり?
無事生き延びることができたのであれば、いくらでもカメ用の水を水浴び用に提供しよう。
庭先でもこれほど警戒心がゆるいから、我が家の裏の道を歩いている時などは観続けていても全然逃げない。
なので遠慮なく観ていると…
…見つめちゃイヤン♪ 的なポーズをするキジバトなのだった(脚色アリ)。