水納島の野鳥たち

ムナグロ

全長 25cmほど

 夏場に台風で連絡船が欠航している時には、誰も来ないことをいいことにアジサシたちが桟橋上を占拠していることがある。

 一方、アジサシたちが南国へ旅立ってやがて冬になっても、季節風で連絡船が欠航すると桟橋上に集まる鳥たちがいる。

 小さな画像では黒い点々にしか見えないから、もう少し近寄ってみると…

 …これでも見づらいから、さらにアップ。

 そして1羽に注目。

 ムナグロだ。

 コロナ禍になった頃から毎冬のように桟橋に群れ集まる姿が観られるようになってきたムナグロたちは、普段はもっぱら防波堤の北側に集っていて、やたらと鳴き交わしているからにぎやか…というか少々ウルサイくらい。

 そんな彼らは、連絡船が欠航して桟橋に誰も来なくなると、桟橋上に大集合する。

 冬場に連絡船が欠航しているということは、それなりに強い風が桟橋に向かって吹いているわけだから、彼らは全員風に向かって立ち、ジッと耐え忍んでいる。

 そういうところにジョギングなどで通りかかると、たちまち彼らは飛び去って…

 …防波堤の上に場所を移す。

 ところが、軽トラに乗ったまま近づいていくと、他の鳥さんたちと同じくかなり近づける。

 近寄らせてくれるのをいいことに、集団の一部にコンデジを向けて注目していたところ、上の画像の矢印の先の子が居場所を少し変えようとしたのか、風に対する体の向きを変えた途端…

 …軽い体が強風で押され、ズルズルズル…と風下側にずり動かされてしまっていた。

 慌てて踏ん張るうっかり八兵衛。

 そうならないように、他のみんなは風が吹いてくる方向に正対しているのだ。

 でもなかには強風を利用している子もいて、風と戯れているんだか何しているんだか、フワッと舞い上がってすぐに降りるということを繰り返していた。

 風はトモダチでもあるらしい。

 前述のように近年になって冬の欠航時の定番になってきた感すらあるムナグロたちは、冬限定だけに装いは決まって冬羽だ。

 ところが、どういうわけか4月の半ばを過ぎても欠航時の桟橋上で彼らの姿が観られた2022年の春は、いつもの冬羽集団に混じって、それまで観たことがない羽色をしている者たちの姿が。

 ムナグロの夏羽だ!

 手前と後方とではまったく別の鳥に見えるけれど、これは冬羽と夏羽の違いで、どちらも同じ種類の鳥さんなのだ。

 ちょうど季節の変わり目で、換羽の時期だったのだろう、よく観ると他の子たちも冬羽とは少々異なっていて、斑状に黒い模様が出てきていた。

 ムナグロは沖縄県内で観られるチドリ類の中では最も普通に多数観られるそうなので、他の場所なら換羽の姿を目にすることもザラなのだろう。

 夏羽になってから遠くシベリアの空に旅立つということだから、ちょうど換羽の時期からレジャーシーズンに突入する水納島のこと、例年であればこの時期の朝に桟橋が静かに佇んでいるなんてことはありえないので、水納島でこの夏羽を観ることができたのはコロナ禍のおかげ。

 コロナ禍中の春だからこその閑散とした桟橋やビーチでくつろいでいられたムナグロたちも、今後は冬から春にかけて港で大々的な改修工事が始まってしまうとなれば、彼らの姿を間近に観るのも当分お預けになるかもしれない。

 そうなってしまう前に、夏羽を拝見できてよかった…。