全長 14cmほど
ウグイスは水納島でも通年観られる野鳥で、たくさんいるからその姿を見かける機会も多い。
亜種レベルで区別すると、沖縄に通年いるものは本土のザ・ウグイスとは別亜種らしく、冬季にはそのザ・ウグイスや別亜種のカラフトウグイスが南下してきて県内で越冬しているという。
とはいえそれらを見分ける能力などワタシにあるはずはないから、ここではすべて「ウグイス」で通す。
ウグイスといえば「ホーホケキョ!」。
もっとも、ウグイスたちは年がら年中ホーホケキョ!と鳴いているわけではなく、真冬にその声を聴くことはできない。
春の気配が訪れるとようやく「ホー…ホケッ」的に、聞いているこちらがずっこけてしまう練習期間を経て、やがて盛大に囀る日々を迎える。
ただし彼らウグイスは、見晴らしのいいところから美しい声を響かせるイソヒヨドリなどとは違い、囀っているときはけっして姿を見せない、という頑なな信念の持ち主なので、声はすれども姿は見えず…ということになる。
そのため長い間、鳴いている最中のウグイスなんて目にしたことがなかった。
ところが3年前(2020年)の4月末のこと。
コロナ禍によりGWというのにのんきにカメさんのエサ採りのために歩いていると、そこかしこからウグイスの声が高らかに響き渡っていた。
ああ、春ですねぇ……
…としみじみ囀りに耳を傾けていたところ、歩いている道のすぐそばの藪からも、大ボリュームでウグイスの囀りが。
これはすぐ近くにいる!
鳴いている最中のウグイスを目にしたことがなかったワタシにとって、目の前の藪で囀っているウグイスは人生最大のチャンスかも。
とはいえウグイスの囀りは響き渡り過ぎるため、このあたりという範囲はわかっても、ピンスポットで場所をロックオンできない。
ここはひとつ、江戸屋猫八になるしかない。
聞くところによるとウグイスの囀りは、ライバルがいてこそより美しくなるそうで、ライバルがいない環境で世代交代が進むと、やがて「ホー…キョピッ」くらいの簡略短縮版になるらしい。
つまり相手がいれば、それも聞きなれない不審な声が近くから聴こえれば、藪の中のどこかにいるウグイスはなんらかの反応を見せるはず。
…と勝手に都合よく解釈して、江戸屋猫八の足元どころか地下10mにも及ばないヘタクソな口笛でウグイスの真似をしてみたところ。
このあたりのどこか…と絞っていた視野の上端ギリギリ、目の前1.5mのところに、1羽のウグイスがヒョコヒョコと現れた!
そして…
「ホー……ホケキョッ!」
わぉ、ついに目撃、囀るウグイス!
ウグイスボーイはそのあとすぐ飛び去ってしまったので1度きりながら、いやはや、それにしてもなんという声量。
ナリはメジロと大して変わらないのに、その口から発せられる囀りの音量増幅感は想像を絶するものがある。
たとえていうなら、公園の砂場で遊ぶいたいけな2歳児が、突然パバロッティの声でオペラを歌いだしたかのような「そぐわない度」だ。
レア度でいえば素顔の八代亜紀を見るよりもムツカシイ囀るウグイス、ひょっとすると人生最初で最後かもしれない束の間の奇跡なのだった。
あいにくその様子は目撃しただけで記録はできなかったので、普段我が家から聴こえるウグイスの声をどうぞ。
前述のように、ウグイスたちがこのように高らかに囀るようになるのは春以降のことで、冬場は体色どおり地味な存在になっている。
それでもウグイスといえば樹上にいる小鳥、というイメージがあったので、早春にハイビスカスの垣根の根元あたりをウグイスがガサゴソしているところを目にした際には驚いた。
ウグイスたちがこのように地面でエサを物色するのはごくごくフツーのことらしく、その後冬の散歩中などにしばしば目にするようになった。
コロナ禍中の2020年から2021年にかけての冬場のウグイスたちは、どういうわけだかフレンドリー度が桁違いに高かった。
まるでイソヒヨドリやジョウビタキなみに、裏庭でゴソゴソと作業をしているオタマサのすぐそばでおこぼれ狙いで待っていたりするのだ。
コロナ禍でシーズン中の島内に蠢く人類の数が激減し、おまけに過疎化大進行で冬場の島内人口もわずかだから、ひょっとするとウグイスたちにとってヒト科ヒト属のホモ・サピエンスは脅威ではなくなっているのかも。
冬のさなかの1月にカメさんたちのエサを求めて我が家の裏側のクワの木を物色していた際も、すぐそばの地面でウグイスがチョコマカとエサをついばんでいた。
目につくものをなんでもかんでもチャッチャチャッチャとテキトーについばんでいるように見えるけれど、「鳥の時間」ではそこにちゃんと様々な動作の手順があって、ヒトには刹那にしか思えない時間のなかで、ウグイスはエサとなるものをちゃんとチェックしている。
ちなみにこれを観ているワタシは、何かの物陰に隠れているわけでもなんでもなく、同じ路上に姿を晒してカメラを向けているだけで、その間わずか2mほど。
さすがにチョンチョンと啄みながらも少しずつ離れてはいったものの、これまでだったらまずファーストコンタクト時点でサッと飛び去ってしまうところだというのに、なんともフレンドリー。
来たる春には、囀り中のウグイスを庭で観ることができるかも?
…と期待してから2年経った今春(2023年)、パソコン仕事をしていた時、窓の外からとてつもない大声量でウグイスの囀りが聴こえた。
ビックリして振り返ると、網戸越しに家から1mほど離れたところにあるトマト用のワイヤーメッシュに、ウグイスの姿が。
思わずカメラを手にしようとしたワタシの動きを察知したらしく、残念ながらウグイスは逃げてしまったのだけど、そのままジッとしていたらまさに庭で囀るウグイスを部屋から観ることができたはず。
クーッ!惜しいことをした。