全長 30cmほど
毎年春先になると沖縄の新聞やテレビニュースで、一度は話題にのぼる春の旅鳥、ヤツガシラ。
世界的に見ても珍鳥で、鳥好きの憧れの的の一つであるヤツガシラは、世界中に鳥多しといえどもこの地球上に1科1属1種しかいないそうな。
いわば鳥界のツノダシのような存在なのである。
あれ?そう例えると品下がる?
ツノダシもあれはあれで、分類学的にはすごい存在なんでございますよ、ええ。
そんなヤツガシラが、水納島にもほぼほぼ毎年1~2羽、真冬から早春にかけて短期間だけ姿を見せてくれる。
ハトをかなりスマートにしたくらいのサイズの鳥で、水納島で観られる野鳥のなかでは比較的大きめの体つきながら、開けた土地や枝上にいるとほとんど目立たない。
ところがヒトの気配を察知して飛び去ると、コントラストクッキリの白黒模様の羽ではばたく姿がとってもよく目立つから、ひと目で存在に気づくことができる。
背中から見ると止まっている時でも白黒模様が鮮やかだから…
…見慣れてくると飛び立たなくても気づけるようになる。
ただしせっかく存在に気がついても、ヤツガシラという鳥を知らず、ただ「鳥」で済ませてしまっていては、目の前のシアワセに気がつかないということになる。
その点昭和天皇は一味違った。
聞くところによると、生き物が大好きな昭和天皇が皇居内の畑で芋掘りをされていた際に、1羽のヤツガシラが姿を見せたという。
すぐさま陛下は、侍従に急いで双眼鏡を持ってくるようお命じになったものの、事情のわからない侍従、陛下に語っていわく、
「芋を掘るのに双眼鏡が何故いるのですか?」
「陛下の目」か「侍従の目」かによって、見えてくる世界も違ってくるのである。
小さな島を散策するなら、是非とも「陛下の目」でお楽しみください。
ヤツガシラは開けた原っぱや農耕地でエサを探す鳥だから、水納島の場合は農耕地や未舗装の道、それに学校のグランドで姿を見かけることが多い。
時には家の中から観られるくらい、人家に近いところにいることもある。
↑これは家の中から撮ったものです。
当初は姿を見るだけで舞い上がっていたものだったけど、短期間ながらもほぼ毎年コンスタントに会えているおかげで、だんだんゆとりをもって観察できるようになってくると、彼らの様子も楽しめるようになる。
道路上でやや無精ひげチックに延びている雑草の合間を、精力的につつきまわって獲物を探すヤツガシラ。
なるほど、こういう場合に長いくちばしはとても便利なんですな。
そして獲物を捕え餌を飲みこむ時には、大口開けポーズ。
そんなヤツガシラのお食事の様子を動画でも撮ってみた。
このようにヤツガシラを見かけるのは地上というケースが圧倒的に多いのだけど、もちろん樹上にいることもある。
ただし樹上のほうが見晴らしがいいだけに、こちらの気配をすぐに察知してアッサリ逃げられてしまうことのほうが多い。
コンデジのくせにけっこうズームが聞くジョニーを使うようになってようやく、樹上でくつろぐ彼の様子を離れたところから撮ることができた。
何かゴソゴソしているから、ひょっとして木の表面の虫でも獲っているのかな?と思ったら…
かい~の!をしていたのだった。
くつろいでいるから、のんびりと羽繕いもする。
痒いところに手が届く、という意味でも、長いくちばしは便利なのだろう。
このような食事の様子やくつろぐ様子もそれはそれで興味深いところではあるけれど、なんといってもヤツガシラといえばこの姿。
冠羽全開!
汝、これを見ずしてヤツガシラを語ることなかれ…ってなくらいのお姿だ。
これまではときどきブランクを挟みつつも、コンスタントに出会えていたヤツガシラ。
1羽姿を見せるだけで話題にのぼる珍鳥がフツーにやってくる水納島、そこにはやはり、適度な農耕地や未舗装路といった開けた土地の存在と、シーズンオフ中のヒトの少なさといった要因があったのだろう。
でも昔に比べるとすっかり規模縮小してしまった農耕地、そして未舗装路を舗装し、島内の隅々まで宿泊施設が立ち並べようというリゾート開発が、この先ヤツガシラの楽園(?)を損なってしまうことになることが容易に予想できる。
ヤツガシラの姿もまた、失われてしまった島の財産ということになるかもしれない。
ヤツガシラ、ご覧になるなら今のうちかも。