甲幅 100mm
琉球大学を卒業した私は、水族館に就職した。
そこは水族館にしては珍しく都会にあり、買い物ついでに訪れるお客さんたちには便利だったろうけれど、通勤時間0分の現在では思い出すだけでも身の毛がよだつ通勤ラッシュを片道1時間以上耐えなければならなかった。
そのうえ水槽の清掃は閉館後の作業だったので残業が多い。
では日中は暇かというと、どういうわけかそんなこともない。
生き物を飼育するということになぜか毎日時間に追われ、時間内に大量の仕事をこなそうとし、まったく心身共に余裕がなかったのだ。
そのため期間限定の特別展のように短期間しか付きあう必要がない企画が持ち上がると、取り扱う生き物たちはとにかく手間のかからないヤツがいい、という気持ちになっていく。
このアカモンガニなどは「エビ・カニ展」という特別展示で飼育したカニたちの中では断トツの世話いらずで、頬ずりしたくなるくらいに丈夫なお利口さんだった。
なにしろ4~5日絶食状態になってもピンピンしているし、与えれば与えたでなんでもモリモリよく食べてくれる。
似たような食性(貝などの底生動物)でなにげに丈夫なカニといえばカラッパの仲間たちも同様なのだけど、彼らはすぐに砂や砂利に潜って隠れてしまうからまったく「展示」向きではない。
その点アカモンガニは、リーフエッジをリアルに再現した水槽でさえなければ、堂々とその姿をさらし続けてくれる。
そのうえ甲幅10cmほどとでっかいから、エビカニ変態社会人ではない一般のお客さんにもフツーにカニと認識してもらえる。
飼育スタッフとしてはありがたいったらない。
ところがこれがダイビングとなると、彼らは夜しか姿を現さないし、それもすぐに逃げ込める空間がある岩のくぼみにいることが多い。
自然下では、避難場所があってこそ、初めて「普段の様子」なのだ。
水槽の中はさぞかし居心地が悪かったことだろうなぁ…。
また、自然下であれば、↓このように卵を抱えていることもある(冒頭の写真も抱卵中)。
もちろんのこと、水族館の水槽内では、卵を抱えている様子など一度も目にしたことがない。
アカモンガニにかぎらず、そしてエビやカニにかぎらず、凝った水槽で見かけ上の「普段の様子」は再現できても、けっしてそれは「自然の姿」ではない…
…ということは百も承知のことながら、ああ、あの子もこの子も、せめてもう少し居心地のよい水槽を作ってやればよかったなぁ。
水槽内の彼らを思い出すたびに、後悔しきりの私である。