体長 15mm
水納島周辺にはいくつかのダイビングスポットがあるけど、その年ごとの「ホットスポット」というのがある。
ネタが多いとか、おもしろい生き物がいつもいるとか、魚が格段に多いとか、とにかくそのような場所のことだ。
前世紀のある年には、それまで何の変哲もなかった1m四方ほどの小さな根がホットスポットとなった。
ほんの少し前までは寂びれた平日の商店街のように小魚がまばらにいるだけだったのに、なぜだか突如スカシテンジクダイが根を覆うように群れ集い、いつの間にかどこかで随分成長したアザハタが、あまり人を恐れずにそこの主として君臨し始めたのだ。
おまけにエビ類が豊富で、畳1畳ほどのこの根にいるだけで、マクロ・ワイドともに楽しめたものだった。
そのホットスポットにいた豊富なエビ類のひとつが、冒頭の写真のエビだ。
「胸に白いV字模様のある見慣れないエビがいた」
というだんなの報告をうけたのはその年の8月、シーズン真っ盛りのことだった。
当時の当店は我々夫婦以外にもスタッフが豊富で、8月の私は体験ダイビングやら講習やらが連日続き、営業的にはうれしい悲鳴をあげつつも、カメラを持って遊びで潜れない1ダイバーとして、ホントの悲鳴をあげていた。
そのため、せっかくのホットスポットにもかかわらず、その根に行くことすらかなわぬ日々が続いてしまい、ようやく対面がかなったのはそれからひと月経ってからのことだった。
見た瞬間、数年前に別の場所で一度見たことがあるエビだということがわかった。
当時は名前がわからないままで終ってしまったけれど、再会して写真も撮れたことだし改めて調べてみると、アカシマモエビという名前らしいことがわかった。
スカシモエビの時とは違い、ちゃんと七たび探して発見したIOPニュースの記事によれば、伊豆の大瀬崎ではサラサエビと同じくらい多く見られるという。
結局このエビは9月半ばに姿を消し、それと時を同じくして根を覆っていたスカテンも消えた。
そしてホットスポットは、元の静けさを取り戻し、秋風吹く今、アザハタだけが少し寂しげに頑張っていた。
その後長らく姿を拝む機会が無かったのだけど、2014年の春に1度だけ再会の機会があった。
スカシモエビが複数観られる水深30m超のところで、スカシモエビと同じような感じでチョロチョロしていた。
胸のY字印は、紛うかたなきアカシマモエビの印。
…といいつつ、スカシモエビにも似たような模様があるからヤヤコシイのだけど、アカシマモエビはアカシマシラヒゲエビのように体を左右にふる仕草を見せるのに対し、スカシモエビはわりとジッとしているから、なんとなく違いが分かる。
それに、いくらスカシモエビの体色にいろいろあるとはいえ、触角の色までは変えられないはず(スカシモエビの触角は白い)。
久しぶりに再会をしたときには、もう世の中にエビカニの図鑑がたくさん出ており、例の「サンゴ礁のエビハンドブック」もその前年に出たばかりだったから、さっそくそのあたりのことを確かめようと調べてみたところ…
あれ?
アカシマモエビが載っていない??
ありゃ……ひょっとしてスカシモエビと同じ種類なんてことになって、この世から存在が消えちゃったのだろうか?
いや…待てよ。
四半世紀前に調べたときには、たしか伊豆あたりではサラサエビと同じくらい見られるって話だったよなぁ…。
ってことは、このアカシマモエビって温帯の海メインの北方系だったの??
…と思ったら、ネット情報によると、フィリピンのマクタン島あたりではフツーに観ることができるくらいたくさんいるという。
なんで伊豆にもフィリピンにもたくさんいて、水納島にはいないんだ?
すると今度は、もしかすると温帯域で「アカシマモエビ」と呼んでいるモノはアカシマモエビこと Lysmata vittata とは別種かもしれない…という話も出始めていることを知った。
ホントに別だということになると、アカデミック変態社会上の掟により伊豆方面のエビはアカシマモエビではなくなるとのこと。
「サンゴ礁のエビハンドブック」にアカシマモエビが載っていないのは、そのあたりに理由があるんだろうか?
それはともかく、では私が過去に出会ったこのエビたちは、いったいぜんたいどっちになるんでしょう?
やっぱり海流的に南方系かなぁ…。