甲長 5mm
今でこそ立派な和名がついていて、なおかつ「ロボコン」というニックネームも広く知られているこのアナモリチュウコシオリエビ。
しかし前世紀のその昔、まだダイバーの目が変態的に微に入り細を穿つようになる前の時代では、ホントに「知る人ぞ知る」スモールクリーチャーだった。
幸か不幸か早くからそういったスモールクリーチャー、とりわけ甲殻類に目が無かった私にとっては当時から既知のコシオリエビで、水納島では砂地の根の小さな穴から体の割には大きな丸い眼をのぞかせ、鋏脚をニョキッと突きだしている様子をちょくちょく目にしていた。
彼らは警戒心が強いから、ウカツにカメラを近づけたり無遠慮にライトを当てたりすると、シュッ…と穴の奥の方へ引っ込んでしまう。
なので彼らを脅さぬよう怖がらせぬよう、そっとレンズを向けてはパシャッと撮り、こんなコシオリエビに気付いて密かに愛でているのは世の中で私ぐらいなモンだろう、と内心ニマニマしていた。
ところが98年のこと、西表のスーパーガイド矢野氏のガイド生活25周年を記念して刊行された写真集を見てビックリ。
このコシオリエビが、ドンッと掲載されていたのだ。
それからというもの、このコシオリエビに妙にスター性を感じてしまい、見る目が変わってしまった現金な私である。
この写真集がきっかけとなったのか、そもそも世の中が変態づいてきていたからかはわからないけれど、その後世間でもこのコシオリエビがすっかり認知されるようになった。
まだ和名が無かったために「ロボコン」という愛称がつけられたのはその頃のことで、なるほど、たしかに赤っぽい体から伸びる長く黄色いハサミ脚は、いかにも「ロボコン」(ハサミ脚をはじめとする各脚にビッシリ生えている剛毛は、肉眼ではまず見えない)。
すでにして当時、変態社会世代がいかにおっさんおばはんたちばかりだったかということがよくわかる愛称でもある(?)。
「ロボコン」という愛称がかなり広く知れ渡るようになってから、ようやくつけられた和名は、穴を守っている最中のコシオリエビという意味ではなく、穴を守っているチュウコシオリエビという意味だから、そのあたり誤解なきよう…。
長い間知る人ぞ知るスモールクリーチャーだったとはいえ、アナモリチュウコシオリエビはけっしてレアというわけではなく、水納島ではいたるところにいるほど多くはないものの、水深20m前後の根であれば、探し求める必要はないくらいに出会える。
彼らが巣穴にしているのは自分で穿ったものではなく、他の生き物の空き家を利用しているようなので、居場所は個体ごとに様々だ。
冒頭の写真のように真っ赤なカイメンに覆われたところに開いた穴に住んでいるものもいれば、塊状サンゴに開いた穴から顔を出しているものもいる。
石灰藻と各種ホヤに彩られた岩肌の穴に住まうものもいれば…
表面をほぼ藻に覆われたところに開いた穴から姿を見せているものもいる。
せっかく撮るならより綺麗な巣穴にいる子を、と探し求めてみれば…
巣穴の入り口を小さなケヤリムシの仲間で飾り付けている子に出会うこともある。
どのような巣穴にいたとしても、基本的に明るいところは好まない彼らなので、日中は穴からせいぜい半身を出している程度だ(彼らが食事をしているシーンなどこれまで一度も観たことがない…)。
ところが、分厚い雲に覆われているなどして海中がいつもより暗くなっていると、ときに随分身を乗り出していることもある。
それどころか、全身を余さずさらけ出していることもあった。
そもそもなんで彼が全身をさらけ出していたのか、なにぶん撮影したのは8年も前(2014年)のことなので、撮影者には一片の記憶も残ってはいない(私のことです、ハイ…)。
ところで、このようにツラツラとロボコンたちの写真を眺めてみると、それぞれ微妙に色味やハサミの形が異なって見えるような気もする。
これらはホントに、みんな同じ種類なのだろうか?
きっと同じ種類なのだろうと納得できるシーンに遭遇したのは、昨年(2021年)のこと。
ロボコンたちはたいていの場合単独で観られ、近接したところに他の子の姿は見えないことが多いのに、このときは…
すぐそばにもう1匹の姿が。
見比べてみると、両者のハサミ脚のサイズや形状はけっこう異なっている。
これはオスとメスということなのだろうか、それとも単に成長段階の違い?
いずれにせよ、同じ種類でもハサミ脚のサイズや形が成長や性別で異なるのであれば、色味の違いも含め居場所ごとに微妙に違って見えるのも無理はない。
なので、やたらとハサミがでっかいと思った↓コイツも…
やたらと赤味が強い↓この子も…
どちらもアナモリチュウコシオリエビってことでOK………ですよね?