体長 20mm
ビシャモンエビは、ムチカラマツの仲間に共生するエビだ。
同じくムチカラマツの仲間に共生するムチカラマツエビやキミシグレカクレエビにそっくりだから、かつて私はビシャモンエビのことを、ムチカラマツエビと同じテナガエビ科カクレエビ亜科に属するエビだとばかり思っていた。
なので、ビシャモンエビがそれらとは科の段階でまったく違うグループ(タラバエビ科)に属すエビである、ということを知った時にはたいそう驚いた。
科でまったく異なるのにそっくりということはすなわち、犬のように見える猫、猫としか思えない姿の犬、といった存在だ。
そう言われて改めてじっくり見てみると…
たしかにハサミ脚の存在感がムチカラマツエビとはまったく違う…というより、見えないじゃんハサミ脚。
すべてのエビにあるものだとばかり思っていた額角は、見えないだけじゃなくそもそもビシャモンエビには無いのだそうだ。
ハサミ脚は見えない、額角は無い、となにげに無い無い尽くしのビシャモンエビながら、彼らの特徴はなんといっても体に生えた角のような立派な突起。
エビといえばただでさえエイリアンチックなフォルムだというのに、ビシャモンエビはこの突起のおかげでいっそう宇宙生物的になる。
ただし小さい個体にはこの突起はない。
細めのムチカラマツに比してこのサイズだから、相当なチビチビだ。
これだけ見たらとてもじゃないけどビシャモンエビなどとは思えないかもしれない。
ビシャモンエビはムチカラマツのほか、枝がたくさんある系のウミカラマツの仲間(ススキカラマツ?)でも観られるのだけれど、水納島の場合、ムチカラマツエビに比べると出会う機会は圧倒的に少ない。
水納島ではまた、まだ水温が低い春には浅いところでも観られるのに、夏になるとわりと深めのところでしか観られなくなる。
明るい日差しがイヤなのだろうか。
あちこちで見られるわけではないのに、水深20mほどの砂地の根で育っている50cmほどのムチカラマツには、なぜだかビシャモンエビがよくついてくれる。
それも、その程度の長さだから訪れるたびに端から端までチェックできているはずなのに、あるとき突然、プリッとしたメスがついていたりするのだ。
それまでいったいどこにいたんだろう?
さきほどのチビチビならうっかり見逃しているということもあるだろうけど、冒頭の写真のようなサイズは見逃しようがないし、いくらなんでも見逃していたチビチビがいきなりボンッ!とでっかくなるはずもない。
そうやって突如現れたかと思うと、しばらくその場に居ついてくれたあと、いなくなるのも突然。
死んでしまっていなくなったものと思っていたけど、実はそうではなく、なにげに旅するエビなんだろうか、ビシャモンエビ。
とはいえ同じ場所で成長を追うことができることもある。
チビが成長すると…
突起が出てくる(同じ個体ではありません)。
最初からオスメスが決まっているのか、ビッグなものがメスになるのかは知らないけれど、ビシャモンエビでは雌雄で体格差がかなりあるペアしか観たことがない(小さいほうがオス)。
同じところで暮らしているオスメスの体の色は同じでも、ビシャモンエビもやはり宿主や環境に応じて体色を変化させるので、深いところで育つウミカラマツの仲間についているビシャモンエビは、宿主の色に合わせてオレンジ色になっている。
もちろんここに暮らしているオスも同じ色。
光を当てているからこそオレンジでも、肉眼ではダークな色、しかも周りに枝が折り重なっているため、うっかり八兵衛なら見逃すこと請け合いの隠蔽度だ。
また、ムチカラマツで暮らしているもの同士でも、ムチカラマツ本体の色が微妙に異なるからか、色味が随分違っていたこともある。
同じポイントの似たような環境ながら、撮ったのはそれぞれ1月と5月。ひょっとして季節でも色味が変わるとか?
これらの色味のうち、ビシャモンエビのデフォルトカラーが何色なのかは不明だ。
それでも、おそらく卵の色は体の色にさほど左右されないのではあるまいか。
冒頭の写真のメスがお腹に抱えていた卵は、まるで金粉をまぶしたようにキラキラしていた。