甲幅 15mm
エビカニ変態社会が帝国化している今の世でさえ、まだまだ正体が判明しないものは数多く、特にクモガニの仲間はたとえ図鑑に載っていても「クモガニの1種」で終わってしまうことが多い。
そもそもよほど特徴的な種類でないかぎり我々シロウトが正体を詳らかにする方法がないものばかりで、たとえ正体がわかってもまだ和名がつけられていないというケースがたびたびある。
ほぼ夜にしか出会えない種類になるとさらにそれが顕著で、ナイトダイビングで出会うクモガニ系といえば、さんざん調べても結局「クモガニの1種」以上のことがわからない。
ところがこのボラダイルツノガニもまた「夜に出会うクモガニ」なのだけれど、パッと見に特徴があってすぐに他と区別させてくれるとってもお利口さん(?)なカニだ。
冒頭の写真のように、頭の先には2本の長い角が伸び、甲羅の背中に白いVサインのような模様があって、それがとっても目立つのである。
日中はリーフの暗がりに潜んでいるらしく、無理無理探すのではないかぎり、外に出ている夜のほうが会う機会は断然多いと思われる。
ただし「クモガニの1種」で片づけられるものたちと比べると数はそれほど多くはないのか、わりと夜潜る機会が多かった前世紀でさえ、2度しかお目にかかったことがない。
こんなに目立つ模様をしているカニにもかかわらず、前世紀当時の図鑑には影も形もなく、名前など知りようが無かった。
ようやくついた和名はといえば、Vサインにはまったく関係ないボラダイル。
これは英国の昔のカニ研究者ランスロット・ボラダイル氏に献名されている種小名 borradailei をそのまま和名にしたもののようで、もちろんながらボラダイルさんがチャーチルのようにVサインが得意ポーズだったというわけではない。。
我々シロウトにも優しいこの特徴的なVサインは、あいにくいつでもどこでも見られるわけではないようで、どうやら↓これもボラダイルツノガニらしい。
↓これもまた、ボラダイルツノガニっぽい。
日中ジッとしている時間が長いからだろうか、体表には藻が生えてきてVサインが見えなくなるようだ。
↓これなど、苔むしすぎて2本のツノは隠れているし、体表の模様は見えないから、一切の特徴が隠れてしまっているけれど…
それでもやはり、ボラダイルツノガニかもしれないそうな。
これまで2個体しか会ったことがないと思っていたら、意外に出会っていたボラダイル。
Vサインに見事な2本の長いツノというわかりやすい特徴の存在が、かえって正体をわかりにくくさせているのかもしれない?