体長 40mm
いち早く扉が開かれた共生ハゼの変態社会、そこで今なお人気があるオドリハゼ。
水玉模様入りの大きな胸ビレをヒラヒラさせながらホバリングしている姿が、その名のとおり躍っているように見えるハゼで、慣れればリーフ際の浅いところでわりとフツーに会える。
なので、一緒に暮らしているエビの存在も古くから知られていた。
ただ、オドリハゼにはかなり早い時期から学名も和名もつけられていたのに対し、みんな知っているこのエビには、長い間和名が無かった。
とはいえ名無しの権兵衛じゃ何かと困るから通称で呼ばれていて、そのひとつが英名のダンスゴビーシュリンプ。
直訳すればオドリハゼエビだから、パートナーがほぼオドリハゼオンリーのテッポウエビとしてはかなり的を射ている。
これとは別に、にわかにはその由来がまったく不明な名前もまかり通っていた。
その名も「ロッテリアテッポウエビ」。
実はオドリハゼの学名が Lotilia graciliosa で、その属名をわかりやすい日本語表記にしたのだった。
そういう意味ではダンスゴビーシュリンプも由来は似たようなものではあるものの、語呂といい馴染み深さといい、ロッテリアテッポウエビに軍配が上がった感がある(※個人の感想です)。
そうはいってもいずれにせよ通称なので、図鑑によって表記されている名前が異なるという、私のような末端ユーザー(?)にとって不便な時代が随分長く続いていた。
それがようやく、エビ界の西の横綱・野村恵一氏了解のもと、2013年の「サンゴ礁のエビハンドブック」に晴れて新称が記載された。
その名もブドウテッポウエビ。
エビの体表の模様がブドウの実のようだから……だろうか?
さてさてこのブドウテッポウエビ、私の知るかぎり唯一無二のパートナーであるオドリハゼがたいそう警戒心の強いハゼなものだから、見張り役のオドリハゼにビビられてしまったが最後、同居人のエビを観ることなどとうてい不可能のように思える。
ところが、ハゼとエビの体格差からくる人生的余裕なのか、たまにエビのほうが警戒心がゆるいのでは…と思えるケースもあり、ハゼが完全に巣穴の中に引っ込んでいるわけじゃない場合は、エビがハゼを押し出しながら姿を現してくれることがけっこうある。
ダイバーにカメラを向けられてしまい、いっそのこと巣穴の中に逃げてしまおうか、どうしようか…と逡巡していたオドリハゼなのに、まるで料理をテーブルに運ぶマンマが「ほらほら、通るよ!どいてどいて!」という感じでドドド…と出てくるものだから、望むと望まざるとにかかわらず、エビとともに外に出てきてくれるのだ。
またこのブドウテッポウエビはハサミ脚もでっかいから、一度に運べる砂の量がハンパではない。
これじゃあハゼがエビに押し出されてくるのももっともだ。
オドリハゼとしては、互いの巣穴のために日々これほどのパワーで働いてくれているブドウテッポウエビには頭が上がらないに違いない。
といつつ、ブドウテッポウエビだって四六時中働いているばかりというわけではないらしい。
ある日のこと、リーフエッジあたりにいるクロエリナマコのフンが、オドリハゼの巣穴の近くに落ちていた。
だからといってこういう場合にウンチに注目するヒトはいないので、私もフツーにオドリハゼとブドウテッポウエビに注目しようとしたところ…
ん?
ブドウテッポウエビの動きが変。
ネックレスウンチを引き寄せてる??
あ!巣穴に引っ張り込んじゃった!!
ネックレスのようではあっても所詮ナマコのウンチなので、ウカツに触れれば脆く千切れてしまう。
なのでテッポウエビが引き寄せると、アッサリと途中で千切れてしまった。
それを巣穴に引きずり込んだテッポウエビは、引き続きウンチサーチをする。
でも……
手の届く範囲にウンチが無~い!
視力が弱いテッポウエビが、ハサミ脚を左右に振りながらウンチサーチをする姿がカワイイ…。
触角がオドリハゼに触れている範囲限定の行動範囲のテッポウエビのこと、ここから先はほとんどアドベンチャーだ。
しかしさしものブドウテッポウエビといえど、私の気配が感じられるときにそんな冒険をするはずはなかった。
やや未練を残していたように見えるテッポウエビ、私がこの場を去ったあと、オドリハゼの協力を得てあと5cmの遠征を果たしたのだろうか?