甲幅 15mm
「オウギガニの仲間」というくくりにすると、とんでもなく多数の種類がいるカニのグループになる。
なにしろ有名なキンチャクガニとサンゴの合間のキモガニがどちらも「オウギガニ科」だということからして、その守備範囲の広さがわかる。
そのため、エビカニ変態社会が開花期を迎えていた頃、変態さんたちが石の下をめくるごとに登場する小さなカニさんたちは、当時どれもこれも「オウギガニ科の1種」であることが多かった。
それが今や冒頭の写真をひと目見るなり「ヒメベニオウギガニである」とわかる人々が星の数ほどいるのだから、エビカニ変態社会の発展ぶりがうかがい知れる。
そのきっかけとなったのが、当コーナーにおいて何度も紹介している名著「海の甲殻類」と、それに続く「エビカニガイドブック」の登場だ。
それ以前は「なにもそこまでしてエビカニを探さなくても…」と思っていた私が、束の間とはいえ石の下の魅惑的なエビカニサーチにハマってしまったのも、それらの図鑑によって石の下に潜む魅惑的なエビカニたちの存在を知ったからこそ。
ヒメベニオウギガニとの初遭遇もそんなおりのことで、ビーチで潜っていた時に出会うことができた。
初対面のヒメベニオウギガニは、めくった石の下でしばらくジッとしていた。
いきなり日の光にさらされて死んだフリでもしているのかな?と思ったら、ハッと我に返ったのか、慌てて元の石の下に潜っていった。
夜行性のカニさんだから、日中は暗いところにいないと落ち着かないのだろう。
カニさんたちのほか、石の下に潜んでいるあらゆる生き物にそういうパニックをもたらしてしまう石めくり。
そういったことにようやく思い至るようになり、ほどなくして私は石の下サーチ活動から足を洗ったので、以後ヒメベニオウギガニとは再会していない。
一方、よんどころない事情でビーチエントリーしかできなかった2012年の1月に、ナガウニに住まうテッポウエビ類を求めてビーチで潜っていただんなは、このヒメベニオウギガニと初めて遭遇した。
おりしも「クラシカルアイになって見えなくなる前に出会っておこう」とばかりにだんながエビカニサーチをマイブームにしていた頃で、個数限定でめくっていた石の下にいたところに出てきたというヒメベニオウギガニ。
〇〇オウギガニと名がつくカニさんたちは、「とっても地味派」と「わりときれい派」に二分され、めくった石のしたから「とっても地味派」が出てきてもほとんどのヒトはスルーする。
でもヒメベニオウギガニは脚まで紅白のストライプになっているほどのきれい系だから、だんなも注目することとなったようだ。
水納島は砂が白いからか、甲羅が白いものばかりっぽいのに対し、ベニオウギガニの仲間だけあって本来は赤色が主で、真っ赤な甲羅に白い模様が入っているタイプもいるようだ。
見つかってしまったら死んだフリ、は甲羅の色に関係ないとは思うのだけど、ヒメベニオウギガニの死んだフリについて言及されている説明を見たことはない。
だんなが出会った子の死んだフリはなかなか芸が細かくて、脚をたたんで引っくり返ったままジッとしていたそうだ。
まるで山で熊に出会ったヒトの最後の手段ような、ヤケクソの対処法。
突然明るくなると一瞬機能停止してしまうのだろうか。
ヒメベニオウギガニにかぎらず、カニさんたちにしょっちゅうこんな思いをさせないためにも、石めくりはほどほどに…。