体長 3mm
ダイバーなら誰でも、海中で「なんじゃこりゃ?」となる不思議なものの1つや2つは目にしているはず。
私もビギナーの頃から現在に至るまで、様々な「なんじゃこりゃ?」的クリーチャーを見てきたけれど、さすがに30年以上も潜っていると、それらの「なんだろう?」はひとつひとつ解決されていく(エビカニ系以外の「なんじゃこりゃ?」についてはこちらをご覧ください)。
ヒメオオメアミも、個人的にかつては謎に包まれていた「なんじゃこりゃ?」のひとつだった。
画像で大きな姿を見れば、たしかに生き物ということはすぐにわかるものの、そのサイズはせいぜい3mmほどと、米粒よりも小さい。
前世紀に初めて伊豆の海で目にした際は、ゴミが漂っているとばかり思ったものだ。
ところが近寄ってじっくり観てみると、どうも動きが生き物っぽい。
ピコッピコッと動きつつ、海中の水の動きにあわせてユラユラしていた。
マクロレンズ装備のファインダー越しでさえなかなか細部まで観察できないので、とりあえず写真を撮り、現像されたフィルムをじっくりルーペで見てみると…
ワァ~オ、こりゃ甲殻類だ!
エビカニ系の幼生だろうか?
その後ほどなくしてネット社会になるなどとは夢にも思っていなかった頃のこと、手持ちの図鑑を調べたところで正体など突き止められようはずはなく、以後この生き物を「ピコピコ虫」と呼ぶこととし、オトナになるとどんな生き物になるのかな?というナゾ解きを楽しみにしていた。
その後越してきた水納島でも、同じように海底のそこかしこでピコピコしていたピコピコ虫。
見慣れてくるにつれわりとコンスタントに観察できることがわかってきたものの、正体不明のままナゾはますます深まるばかり…
…と思いきや、なんと伊豆海洋公園が発刊していた冊子「I.O.P.ニュース」で、このピコピコ虫が紹介された。
その名もヒメオオメアミ。
オキアミの仲間か…と思いきや、オキアミ類とアミ類は分類項目でいうところの「目」で異なるまったく別の生き物なのだそうで、その違いを哺乳類で例えて言うなら、コウモリとシマウマくらい異なるということになる。
それはさておき、何かの幼生かと思いきや、これがオトナサイズだったのだ。
正体不明ゆえにニックネームまでつけ、ナゾの生き物だと鼻息荒くしていたのに、あっけなく既知の生物であることを知らされてしまった私。
マニアックなヨロコビはシュウウゥゥゥゥと音を立てて萎み、ああ「ピコピコ虫」よ、さらばさらば、と涙に暮れた。
とはいえ、まだデジタルカメラが世に台頭していなかった当時はもちろん、猫も杓子もカメラ派ダイバーの現在でさえ、こんな小さな生き物をつぶさに観ている 変態的な 好奇心旺盛なヒトなどそうそういない。
以前の水納島では、砂地に点在する根や岩の流れにさらされないあたりで、ガンガゼ類の棘などの遮蔽物の傍で数匹がピコピコしている様子を、かなり頻繁に観ることができた。
同じ場所でピコピコしているものでさえ色のバリエーションがあり、冒頭の写真のようにカラフルなものや、黄金色のもの…
黒いもの…
茶色っぽいもの…
こげ茶色…
黄土色…
…と、小さいながらもバリエーション豊富だ。
どこが頭でお腹がどこで、どこからお手手が出てるやら…のグルグルパッパのぐるっぱ的なフォルムでただピコピコと動き回っているだけかと思いきや、観ていると意外な動きを見せることもある。
ごくたまに、脚をシャキーンッと伸ばすのだ。
だんなに言わせるとその姿は「まるで出来損ないのモビルアーマーのよう」だそうだけど、それでも生き物としての「やる気」を感じさせてくれるものがある。
また、ピト…と体にくっつけて折りたたんでいる尾は、体から放すこともできる可動パーツだった。
ところで、ヒメオオメアミの背中は、ときどき別パーツがついているように見えることがある。
上の黄金色の子のように同系色だとわかりづらいけれど、ツートンカラーになっている子を見るとわかりやすい。
これって……寄生虫?
まさか、こんな小さな生き物に寄生してメリットがあるとも思えないから、これは卵か何かなのかな?
やっと正体が判明したと思ったら、また新たなナゾが生まれてしまった…
…と思いきや、この疑問もやがて解決した。
これはアミヤドリムシ類と呼ばれる寄生虫の1種なのだそうだ。
ほとんど同サイズの宿主に寄生して、いったいどんなメリットがあるのだろう…。
そんなヒメオオメアミが頻度高く観られたのも今は昔、近頃は1~2匹が寂し気にピコピコしているのをたまに見かけるくらいで、以前のようにワラワラとピコピコしている様子は「懐かしいシーン」のひとつになってしまった。
ひょっとしてそれは、クラシカルアイ化してしまった私の個人的モンダイのせいとか?