甲幅 25mm
潮が満ちたり引いたりするのは知識としてわかっていても、生活に密接に関係しているという人は少ない。
その点海で暮らす生き物たち、特に潮間帯を暮らしの場にしているものたちにとっては、まさにNO干満、NOライフというくらいに暮らしに直結していて、シオマネキと総称されるカニたちもまた、潮の干満がシビアに生活に関係している。
潮の満ち引きに応じて陸になったり海になったりする部分を潮間帯といい、その潮間帯のなかでも砂または泥が堆積するところに穴を掘って生活しているシオマネキたち。
潮が満ちている時の彼らがいったい海中でどのように暮らしているのかまったく知らないけれど、潮が引いて巣穴の入り口部分が空気中に露出するくらいになると、穴からモゾモゾと這い出してくる。
そしてメスならば小さな2つのハサミを、オスならば1つの小さなハサミを器用に使い、砂泥を口に運んでいる。
口にはブラシ状に毛が生えた器官があって、それで砂泥に含まれる餌を濾し取っているらしい。
残りの砂泥は団子にして、傍らにポイッと捨てていく。
ときには恋の時間もあったりするけれど、そうこうするうちにやがて潮が満ちてくるので、彼らはまた穴へ戻っていく。
まさに潮の満ち引きに合わせた、というか、合わさざるを得ない生活だ。
ベニシオマネキの稿でも紹介したように、水納島には4種類のシオマネキがいて、写真のヒメシオマネキは図鑑的には沖縄で最も一般的なシオマネキ、ということになっている。
ところがベニシオマネキが陸側エリアにたくさんいたその昔の水納島には、ヒメシオマネキはさほど目立たないくらいの数しかいなかったように記憶している。
それがいろいろな事情により陸側エリアの「干潟」環境が損なわれたせいか、ベニシオマネキの数が減ったかと思ったら、ヒメシオマネキがやたらと多くなっていることに気がついた。
居場所は他のシオマネキたちと変わらないのかもしれないけれど、実感としては、潮が引いた後の潮溜まりなど、水辺に近いところに多いような気配がある。
時には水に浸かっていることも。
水納島の干潟に暮らす他のシオマネキでは、このように水に浸っている姿を見かけないと思う…のは気のせいだろうか?
ところで、冒頭の写真など、ハサミ脚の動かないほうのツメ=不動指がオレンジ色であれば誰が見てもヒメシオマネキだとわかるのだけど、↓こういうタイプになると、オキナワハクセンシオマネキとの区別がアヤフヤになってしまう。
後ろから見ると、不動指の裏側がオレンジじゃないこともある。
単独だったらヒメシオマネキなんだかオキナワハクセンシオマネキなんだかわからなくなってしまいそうなところ、サイズ以外はまったく同じに見える右側の小ぶりなオスのハサミ脚の裏側が…
…オレンジなので、きっと大きいほうもヒメシオマネキなのだろう、と考える次第。
ひょっとして、色ではなく大きなハサミ脚の指部の形でわかるとか?
ところが驚いたことに、ヒメシオマネキは、なのかシオマネキ類は、なのかは定かならないところながら、少なくともヒメシオマネキでは、本来のハサミ脚の不動指にはギザギザが2つ明確にある。
ところがなにかがあって一度欠損したハサミ脚が再生すると、このギザギザが無い状態のハサミ脚になるというのだ。
これでオレンジじゃなかったらなにがなんだか…。
でも彼らは単独でいることは滅多にないから、周りに大きなハサミ脚がオレンジ色になっているものがいれば、そのあたりにいる子たちはきっとヒメシオマネキなのね…ということにはなる。
でも大きなハサミ脚の色に頼っていると…
…メスにはいったいどこに特徴が?ということになってしまう。
甲羅の模様は無地だったり模様が有ったりするし、ハサミの色も形もいろいろあるヒメシオマネキ、なにかこう「これがヒメシオマネキだ!」的な目印はないものだろうか。
もっとも、水納島で観られるシオマネキたちの場合、ヒメシオマネキと似ているものといえばオキナワハクセンシオマネキくらいしかいない。
似たような場所に暮らしている両者の明確な違いがどこかにないだろうか。
図鑑の写真を見くらべていて、ハタと気がついた。
眼だ。
ヒメシオマネキは、眼と眼の間が狭く、まっすぐ上に立てれば「11」に見えるほど。
一方オキナワハクセンシオマネキの眼と眼の間はやや広く、眼柄部分が太く見え、「11」っぽくならない。
そうか、眼で見分ければいいのだ!
というわけで、↓このカップルは「11」眼だからヒメシオマネキ。
↓このカニさんは、眼柄が太く、「11」っぽくないからオキナワハクセンシオマネキ。
これでいーのだ。< バカボンパパ風に。
以上、まったく浅薄なるシロウトの独断的見分け方なので、くれぐれも参考になさらないように…。
いずれにしろ、完全に育ったヒメシオマネキは、他のシオマネキたちに比べひと回りほど大きいので、成熟個体なら見間違うことはないだろう。
※真夏の炎天下でのシオマネキ観察は、くれぐれも熱中症にご注意ください。