エビカニ倶楽部

ヒラツノモエビ

体長 20mm

 伊豆や柏島で見られるというトガリモエビの仲間を、一度見てみたいと長い間思い続けている。

 でもなにぶん遥か彼方の海のこと、エビ1匹のためにホイホイ現地を訪れられるような身分ではないので、それは「憧れ」のままになっている。

 ところが、なんと渡久地港から少し瀬底大橋方面に行ったところにある河口近くの海で、トガリモエビの仲間がやたらと観られるという話を伺った(現在も、かどうかは不明)。

 まさか目と鼻の先の本部町の海にもいるとは!(画像は見たことがないのでどのエビかは不明)

 トガリモエビの仲間たちが好むのは内湾の泥底のような環境だそうで、幸か不幸か水納島には彼らが好んで生息する環境がなく、これまで目にしたことがない。

 とはいえ目と鼻の先にいるのなら、目と鼻の前に姿を現すのは時間の問題かもしれない。

 それがいつになることやら、依然トガリモエビには会えないものの、その雰囲気を醸し出してくれるエビには会える。

 ある日いつものようにカメラ片手に目を皿のようにして見知らぬエビちゃんを探していたら、ウミヒルモの葉の上にトガリモエビ……のように見えなくもない姿形のエビを見つけた。

 ひょっとしてトガリモエビ系??

 思わず盛り上がる私。

 しかし近寄って見てみると、残念ながらトガリ具合い(?)が、トガリモエビの50パーセントほどでしかない。

 それはつまり、トガってない。

 なのでトガリモエビではないということはその場で即座に判明したものの、初遭遇のエビであることに違いはなく、やや興奮気味に撮らせてもらった。

 このなんちゃってトガリモエビは、その名をヒラツノモエビという。

 冒頭の写真のように横から眺めてエビの輪郭を浮き立たせると目立っているけれど、おそらく彼が望んでいるであろうとおりに見てあげると…

 …クローズアップすればエビだとわかりこそすれ、海草全体を見渡せば、その姿は見事にカモフラージュされる。

 さらにつぶさに見てみると、リューイーソーに見えた体には、細かな青い点が配色されている。

 ヒラツノモエビ、なにげにオシャレ。

 トガリモエビほどのスター性はないものの、たいていの場合「ワタシは葉…」状態でジッとしてくれたままだから写真も撮りやすく、白い砂底に生えているウミヒルモの緑と同じライトグリーンの姿は、いかにもサンゴ礁の海っぽく爽やかな感じがして、とっても素敵なエビちゃんだ。

 それにしても、いくら小さいエビとはいえ、ウミヒルモの葉となると身動きするスペースなどほとんどない。

 こんなところでジッとしていて、何が楽しいんだろう?

 あ、日中はたただた身を潜ませることによって外敵の目を逃れ、夜になってから盛り上がるってことか…。

 なるほど、ヒラツノの夢は夜開く。

 お楽しみは夜にとってあるのはいいとして、ウミヒルモはやがて枯れてしまうのに、その時彼らはどうしているんだろう?

 なるほど、葉が枯れたら枯れたで、ちゃんと枯れた葉の色に合わせているっぽい…。

 私がこれまで出会ったことがあるヒラツノモエビは、このウミヒルモのほか、タカノハヅタなど…

 …緑が鮮やかな海草・海藻についているものばかりだけれど、場所によっては枯枝や枯れた海草などについていることもあるらしく、その場合はちゃんと茶色っぽくなっているそうだ。

 茶色いヒラツノモエビにも興味はあるものの、やっぱりビジュアル的にはグリーングリーン。

 しかもミニマムサイズ(1cm)なら可憐さも加わって、小さなウミヒルモの葉がステキな舞台に変身だ。

 砂底に点在するウミヒルモの小さな群落は、水温が高くなりすぎるととろけて姿を消してしまう。

 また、どうやらアオウミガメの好物らしく、見事に群生していた葉が翌日ボロボロになっていることもある。

 手つかずのウミヒルモ群落はなにげに期間限定なので、きれいな緑の原っぱを見つけたら、ヒラツノモエビチェックをお忘れなく!(ウミヒルモの葉は肉眼では鮮やかな緑には見えず、茶色っぽく見えるのでご注意ください)