体長 30mm
いわゆる内湾とは、陸水が流れ込む河口周辺であったり、地形が入り組んで奥行きがあるために潮流や波濤に晒されにくい環境のこと。
そのため大きな島には豊富にあっても、水納島のような小さな島では広い範囲でそのような環境は望めないのだけれど、ご存知のようにクロワッサンのような形をしている島の内側、いわゆる裏浜は、小規模ながら文字どおりの内湾ではある。
ただし潮が引くと完全に干潟になってしまう場所だから、安定的に海底居住型海中生物が海中で過ごし続けられる環境ではない。
となると、西表島あたりなら内湾環境の砂泥底で観られる魅力たっぷりの共生エビや共生ハゼたちにはなかなか会えないということでもある。
タカノハハゼもそんな内湾環境が大好きなハゼなんだけど、彼らの好む環境がたっぷりあるわけではない水納島でも、タカノハハゼが観られることもある。
満潮時前後に前述の裏浜からエントリーし、泥底の水路をたどっていけば、会えることもある。
タカノハハゼがパートナーに選ぶエビこそが、このホリテッポウエビだ。
ところで、「ホリ」というのは、「堀さん」か誰かの人名にちなんでいるものとばかり思っていたら、八重山は黒島の保里海岸に由来しているのだそうな。
その海岸が、ホリテッポウエビの本邦初記録地なのだとか。
でも黒島なんて、地図で見るだけだと内湾環境なんてまったく無さそうなんだけど…
…と思ったら、保里という集落は港のすぐそばで、衛星写真で見るとその海岸には防波堤など港を守る人工物がけっこうある。
それらの構造物によって、人工的に内湾環境になっているのだろうか。
実は水納島のビーチでも、タカノハハゼを観ることができる。
ビーチにいたタカノハハゼのパートナーも、やっぱりホリテッポウエビだ。
水納ビーチは水納港のすぐ脇にあり、連絡船から降りたら歩いて30秒で海水浴場という、小さな島ならではの便利なところ。
港とはいっても桟橋と呼ばれるくらいちっぽけな岸壁が1本伸びているだけで、その両サイドは天然の海岸だから、海水浴場といいながらサンゴ群落があり、トロピカルカラーの魚たちもたくさん泳いでいる「自然の海」だった。
ところがこの四半世紀の間だけでも「保全目的」で次々に人工構造物が海の中に設けられたために、昔に比べて海水の循環に支障をきたすようになったのだろう、砂底は年々泥っぽくなり、全体的に内湾っぽい環境になってきている。
リーフの外の砂底で観られる共生エビたちとは違い、ビーチのホリテッポウエビの体が泥成分塗れになっているあたりにも、ビーチの砂底が砂泥底化している様子がうかがえる。
単に見つけられたなかっただけかもしれないけれど、前世紀にビーチでちょくちょく潜っていた頃は、タカノハハゼ&ホリテッポウエビ(当時和名は無かったけど)なんて観たことなど一度も無かった。
これまで観られなかったエビに会うことができるというのは、エビカニラバーとしてはそれはそれでうれしいことではあるけれど、往時のビーチの水中景観の美しさを知る者としては、ホリテッポウエビはビーチの環境悪化の使者のようにも見えるのだった。