エビカニ倶楽部

ホシゾラワラエビ

甲幅 5mm

 琉球大学を卒業後数年都内に勤めていた頃は、休日に埼玉から4~5時間かけて伊豆の大瀬崎まで潜りに行っていた。

 当時憑りつかれたように撮っていたもののひとつが、「ムギワラエビ」だ。

 今でこそ分類学的研究が進み、ザ・ムギワラエビは深海に潜むまったく別の種類ということになり、伊豆で観られるものは「オルトマンワラエビ」という、なんだかM78星雲からやってきたヒーローのような名前になっているけれど、当時は誰もがこの甲殻類のことを「ムギワラエビ」と呼んでいた。

 その「ムギワラエビ」を、バックのヤギやトサカの色が違うからといってはパシャ、アップでパシャ、口をモグモグさせているからパシャパシャ…

 という具合で、他人が見たら全部同じような写真に見えること間違いなしのカットを、何枚も何枚も撮り続けていた私。

 でも「ムギワラエビ」は温帯域の甲殻類だろうから、沖縄では観られないんだろうなぁ…

 …と思っていたところ、驚いたことに水納島にも「ムギワラエビ」がいた!(まだ島に越してくる前のこと)

 再び憑りつかれたように「ムギワラエビ」の写真を撮りまくる私。

 日中なお暗い伊豆の海中とは違い、沖縄の海は明るいものだから、バックを青くしやすそうならパシャ…

 真っ赤なイソバナに乗っていようものならパシャパシャ…

 極チビサイズがいればパシャパシャパシャ……

 例によって他人が見たら全部同じように見える写真を、何枚も何枚も撮り続けていた私である。

 すでに当時、沖縄で観られるタイプの「ムギワラエビ」は、伊豆で観ていた「オルトマンワラエビ」とはどうやら種類が異なるらしいことが、少なくとも変態社会では明らかになっていた。

 両者の脚に、その違いが顕著に表れている。

 オルトマンワラエビの脚は、膝関節(?)のあたりに特徴的な模様がある。

 拡大。

 一方沖縄で観られるタイプは、イルミネーションのように脚全体に細かい白点が散りばめられているだけ。

 今世紀に入ってしばらく経ってからようやくついたホシゾラワラエビという和名は、この白い点々に由来しているらしい。

 この「星空」を、ひところ流行ったソウル写真風に撮ってみると…

 まさにイルミネーション。

 脚の一部しか入っていなくてもこんなに長いものだから、脚全体を画面に入れるととっても小さく写ってしまうホシゾラワラエビの体は、5mmほどとたいへん小さい。

 もはやクラシカルアイでの肉眼観察はほぼ不可能となれば、でっかく写して観るしかない。

 コシオリエビの仲間と同じく、腰から先がクルッと丸まっていることがわかる。

 ではお腹側はどうなっているんだろう、と覗き見てみれば…

 ときには卵を抱えていることもある。

 もっぱら刺胞動物系についているホシゾラワラエビは、水納島に越してくる前も越してきてからも、日中でも暗めの岩陰で育っているヤギ類などをサーチするとチョコチョコ出会えていた。

 ところが私がデジイチを使用するようになった頃(2012年)にはもう、なぜだか遭遇機会が激減していた。

 付着生物の減少と時を合わせていると思うのだけど、その付着生物が減少している理由はまったく不明だ。

 もっとも、ホシゾラワラエビが激減した理由の中には、見つかったが最後、フィルム枚数という制限がないデジイチで私に撮られまくるのを嫌がって身を隠した…ということも含まれているかもしれない?