体長 45mm
他の稿でもたびたび触れているように、前世紀はいつもヒマだったから、エビエビカニカニを求めてナイトダイビングに繰り出すこともたびたびあった。
そんな暇な夜のダイビングで、穴の奥からニョ~ンと長い鋏脚を出しているエビをちょくちょく目にしていた。
ライトを当てるとすぐ奥に引っ込むのでなかなかじっくり見ることはできないけれど、照らし出されたその長い長いハサミ脚はピンクとオレンジが混ざったような不思議な色合いに見え、当時の私が普段撮っていたエビたちに比べると随分大きいこともあり、かなりの印象派だった。
とはいえヒマはあっても情報が無い当時のこと、撮った写真の現像が上がってからも、長い間名前はわからないままだった。
ところが、たまたま手に入れた洋書の無脊椎動物図鑑に、まさにビンゴ!の写真が載っていたのである。
やっと名前がわかるぞ!と喜び勇んでキャプションを見ると、なんと Saron marmoratus とあるじゃないか!
Saron marmoratus といえば、すなわちそれは…フシウデサンゴモエビ!!
フシウデサンゴモエビって、もっとずんぐりした体つきのエビだったはずでは!?
英語苦手脳を知恵熱が出るほどフル回転させ説明を読んでみると、
オスは非常に長い鋏脚を持っていて、メスと区別される
と書かれていた。
当時の日本の図鑑にも、オスのハサミ脚が伸長するという特徴は書かれてはいたけれど、「非常に長い」ったって、説明だけだとまさかこんなに長いとは想像できないよなぁ…。
結局こうして長い間ナゾだったエビは、フシウデサンゴモエビのオスというところへ落ち着いたのだった。
以上、21世紀の変態社会では極めて周知のジジツだから、むしろ知らないヒトを探すほうが難しいくらい。
でも当時は知っているヒトを探すことがなかなかできなかったのだ。
はなはだ不便ではあるけれど、こと「知的興奮」ということでは、今に比べれば遥かに楽しかったのかもしれない。
そんな昔から写真を撮れていたくらいだから、フシウデサンゴモエビは「サンゴモエビ」といいつつ、生きているサンゴにいることはまったくといっていいほどない。
夜行性のため日中は暗いところにおり、ちょっとした岩陰や根の暗がりなどを覗き見ると、ワラ…ワラワラ……くらいにはその姿を見ることができる。
数多いメスは↓こんな感じ。
このずんぐりむっくりな姿を見てフシウデサンゴモエビだと覚えた私が、↓このようなものを目にすれば…
「なんじゃこりゃ?」ってなるのもわかるでしょ?< 共感強要。
もっと小さな若い個体なら、死サンゴ礫が積もって暗がりスペースがあるところでも、日中に姿を見ることができる。
色味が異なるのは若いからというわけではなく、環境その他でいくらでも変わるようだ。
もっとも水納島では、上で紹介している一連の写真のように、水面に浮かぶ連なる泡のような模様の体に、縞々模様の脚というタイプしか観たことがないけれど、場所によっては体も脚も模様がまったく異なるタイプもいるようだ。
そんなのを見つけたら、またまた「なんじゃこりゃ?」ってなりそうなところながら、撮った写真はその場ですぐさま見られ、図鑑でもネット上でも情報が溢れている今の世では、疑問を抱く間もなく答えを知ることができることだろう。