体長 10mm
イソバナとは漢字にすると「磯花」。その名のとおり青い海中に咲く満開の花のような実に華々しいサンゴの仲間で、まるで樹木のような真紅の枝ぶりがとても鮮やかだ。
ただ水中では赤色が真っ先に吸収されるため、水深が増すにつれ肉眼で見るその色は黒っぽくなる。
それがホントは赤いということを知っていると脳が補正してくれるので肉眼でも多少は赤く見えるのだけど、それでも実際の色に比べれば見劣りする。
そこでダイバーは、水中ライトを携行する。
ライトがあればイソバナの本来の美しさを鑑賞できるのに加え、そこに潜んでいる小さな生き物をサーチしやすくなる。
このイソバナにも様々な生き物が暮らしており、どれもカモフラージュが巧みなので発見するのは難しいけれど、水中ライトを当てながらよくよく目を凝らせば、ハゼや甲殻類の姿が見えてくるようになる。
そんなイソバナサーチの際に、もし「個体数が多い割にはなかなか見つけられないコンテスト」があれば、イソバナカクレエビが1、2位を争うことは間違いない。
イソバナの枝にピッタリ身を寄せるせいぜい1cmほどの小さなエビで、おまけに色は拠り所にしているイソバナの色と同じに見えるから、クラシカルアイにはもちろんのこと、遠近どこでもバッチリ見える目でさえ、慣れないとなかなか見つけにくい。
やっとその存在に気づいたとしても、じっくり見ようとするとスススーッとすり足(※個人のイメージです)で枝の裏側に回ってしまう。
そのためゲストに指し示しても、ゲストがじっくり指示棒の先を見ている頃には、イソバナカクレエビは裏側に回っているため、そのゲストは「?」マークを8個くらい頭上に並べながら、何もいないイソバナの枝を見つめ続けることになる。
でも慣れてしまいさえすれば、イソバナなどの付着系の刺胞動物が豊富な海ならわりと個体数が多いので、そこかしこで出会うことができるだろう。
↓ここにも1匹。
若い個体を中心に、ひとつのイソバナに数多くいることが多いので、周りにワラワラいることもある。
もっとも、イソバナカクレエビという実にわかりやすい名前でいながら、拠り所にするのはけっしてイソバナだけではないというしたたかさもあるから、こういう色のヤギ類にいることもある。
たとえ色が違えども、イソバナによく似ている各種ヤギ類にいるものならたたずまいが似ているからまだしも、一見グニャグニャしていそうなのに実はヤギ系というタイプのサンゴに住んでいるものは、パッと見のイメージがかなり異なる。
初めて見たときはまったく別のエビと思ったから、これもまたイソバナカクレエビと図鑑で紹介されているのを見たときにはたいそう驚いた。
でも冷静に比較してみると、なるほどたしかに色以外は同じかも……。
色味の違いもややこしいけれど、オスもしくは若い個体らしき子たちは、フォルムがまったく違って見える。
でもやっぱりこれもイソバナカクレエビなのだ。
ところで、これまでに紹介している写真をご覧になればお気づきのとおり、イソバナカクレエビは横から観ないとなかなか存在を認識できない。
基本的に体は透明なのだそうで、その透明な体に何かがどうにかして宿主と同じ色に見えるようになっているそうだから、上から観てしまうと…
色的に宿主とまったく同化してしまう。
枝の裏にいればもちろんのこと、この方向から見てもなかなか存在に気が付けないから、サーチの際にはご注意くださいませ。
でもまぁ、クラシカルアイじゃこのエビがどこにいようと、まったく見えないか……。