エビカニ倶楽部

イソカニダマシ

甲幅 10mm

 ダイビング中によく会うカニダマシ類といえば、イソギンチャクやウミエラなど、刺胞動物に寄り添って暮らしているものが多い。

 彼らは彼らでもちろんジッとしていることはないものの、素早く動くという印象はない。

 ところがこのイソカニダマシときたら、その容姿からは想像できないくらいに素早くダッシュするのだ。

 潮間帯の浅いところを好むイソカニダマシは、潮が引いた後にできるタイドプールでもよく見られるのだけれど、近づくヒトの気配を察知すると、ササササッ…と高速移動して石の下などの物陰に避難する。

 その素早さたるや、なんで歩脚が4対あるカニよりも3対のカニダマシのほうが速いの?てなくらいに高速で、しかも逃げ場は水中だけにとどまらず、いざとなったら空気中にまで避難する。

 水中にいるときはピンッ!と横に張って勇ましい触角が、上の写真ではフニャリとだらしなくなっているのは、空気中に避難しているところを撮ったものだから。

 高速ダッシュに驚かされるイソカニダマシには、また別の面でのオドロキもあった。

 それは彼らの分布域。

 イソカニダマシは前述のように潮間帯で暮らすカニダマシなのだけど、その分布域はサンゴ礁域だけではなかった。

 調べてみたところ、なんと国内では「青森県以南の日本各地」とある。

 それはすなわち、北海道を除く日本すべてってことじゃないか。

 どんだけ適応力があるんだ、イソカニダマシ。

 沖縄のタイドプールなんていったら、冷え込むときはとてつもなく水温が下がり、真夏には温泉気分に浸れるほど熱くなる厳しい環境だから、そういうところで暮らしている海中生物たちは温度変化にはたいそう強い。

 とはいえ、サルでさえ温泉に浸かるほど寒い寒い青森県の海にまで分布域を広げているとは…。

 冒頭の画像は実はイソカニダマシではない…なんてオチがたとえあったとしても、イソカニダマシの分布域については現行このように説明されている。

 温暖化が進めば、やがて北海道にも進出するだろうから、全国制覇も夢ではない。

 もっとも、全国制覇を成し遂げた途端に、「沖縄にいるものは別種とされ…」なんてことになるかもしれないけれど。