エビカニ倶楽部

イソコンペイトウガニ

甲幅 10mm

 趣味もシゴトも肉体労働である私のここ一番のエネルギー補給は、甘い物。

 といってもちょっと空いた時間に口に放り込むことができる程度のものに限られるから、アメやチョコといったものになる。

 ハイシーズンともなると連日エネルギーが不足がちになり、普段から頭の中で甘いもの甘いもの…と念じながら潜り続けているからだろうか、ある夏の日、水深20mの根にあるトゲトサカ(の仲間)の上で、金平糖を発見してしまった。

 イヤイヤ、これは疲労と窒素がもたらす幻覚かも…

 と、自分自身の潜在的欲求の強さに恐怖すら覚えながらよくよく見れば、申し訳程度の目とハサミがついていた。

 そう、擬態の名人、イソコンペイトウガニだ。

 サイズや色形のあまりのそっくりぶりに、甘味さえ漂ってくる気がする。

 私が発する「うまそう」オーラに危険を感じつつも、彼女は

 「まさか気づかれてないわよね?」

 と、自信と不安がないまぜになった感じで、ひたすらジッとしていた。

 ちなみに写真の子は、よく見ると卵を抱えている。

 そしてこの卵ちゃんたちが孵化後浮遊生活を送り、無事に「カニ」の姿になってトゲトサカにたどり着くと……

 チビチビ金平糖の登場となる。

 …と、クローズアップしていればこそ「カニ」だとわかるけれど、彼らが暮らしているのはトゲトサカの仲間で、金平糖のようなこのカニの色形は、トゲトサカにいると絶妙なカモフラージュ効果を生む。

 さて問題です。↓この写真のどこにイソコンペイトウガニがいるでしょう?(PCでご覧の方は、写真をクリックすると大きな画像になります)

イソコンペイトウガニ

 ちなみに、上の写真などはまだ見つけやすいほう。

 ご存知のようにトサカ類は流れなどの加減でパッと広がったり縮んだりし、縮んでいるときとなると指示棒で無理矢理枝間を見せてもらったりしないかぎり、発見は不可能に近い。

 そうかと思えば、住処にしているトサカのサイズが見るからに不釣り合いなために、トサカが縮んでいようと見つけやすいこともある(同じく写真をクリックすると大きな画像になります)。

イソコンペイトウガニ

 イソコンペイトウガニもトゲトサカの色味に合わせて体の色を変えるらしく、赤味が強いトサカで暮らしているものは…

 けっこう赤っぽい。

 ではオレンジ色のトサカにいるものはオレンジ色なのかというと、必ずしもそういうわけでもなく、赤味を少なくして対処しているものもいる。

 そうかと思えば、ちゃんとオレンジっぽくなっているものもいた。

 どうやら色味に規則性などはなさそうで、同じトサカに2匹いる場合、両者の色味が違うというケースもあった。

 また、トサカの幹(?)自体は基本的に白いからか、特に背中はその白色ベースになっているようだ。

 ただしこれまた個体差があって、なかには美しい模様にうっすら色がついていることもある。

 さらには、トサカのポリプを背中や頭の先に装着していることもあって、それによっても色味が随分変わる。

 カニの体に装着されたポリプは、それはそれでその場所で健やかに育つらしく、時にはカニの頭からビヨ~ンとポリプが伸びていることもある。

 ことほどさように、イソコンペイトウガニのカモフラージュ作戦の念の入れようは相当なもので、それがせいぜい甲羅の幅1cmほどとなれば、発見するにも骨が折れる…

 …と思われるかもしれないけれど、なにせ彼らの住まいといえばトゲトサカ(の仲間)と決まっているようなものだから、トサカをサーチし続けさえすればいずれ会えるカニではある。

 モンダイは、水納島ではその住まいとなるトサカ類が、なぜだか安定的に成育してくれないということ。

 毎年毎年そこかしこで育ってはくれるのだけど、何かの拍子に傷ついていたり、急に萎れてやがていなくなったりと、カニたちが終の棲家とするにはやけに短命で生息状況が不安定なのだ。

 ↑このトサカはリーフエッジの水深5mそこそこのところで育っていたもので、そこにイソコンペイトウガニが大小2匹暮らしていた。

 水深5mでイソコンペイトウガニだなんて、それ以前では考えられなかっただけに重宝していたところ、夏のある日真っ二つに割られたように傷つき、やがて萎れて消えてしまった。

 よく訪れる場所なのに出現は唐突に感じたほどだから、トゲトサカ類の成長速度は意外に早いのかもしれないとはいえ、終焉に至るまでも早かったら、カニもおちおち暮らしてはいられないだろう。

 育つよりも減る速さのほうが勝っていたひところなどはトゲトサカ類がめっきり減ってしまい、イソコンペイトウガニなんて夢のまた夢のカニになっていたこともあるほど。

 近年もやはり傷んだり萎れたりして消えていくものが多い一方で、それよりも育つ早さのほうが勝るようになっているのか、トゲトサカ類の姿が目立つようになってきている。

 これでようやく、再びイソコンペイトウガニと会えるようになる…

 …というヨロコビも束の間、クラシカルアイがそれを阻むようになってきているのだった。

 このカモフラージュ、クラシカルアイにはなかなかキビシイ…。