体長 10mm
前世紀最後の師走にモルジブに行ったとき、ハウスリーフでもたっぷり楽しんだほか、何回かボートダイビングをした。
60分という制限つきながら、ありがたいことにバデイ単位で勝手に潜れるシステムだったので、ドリフトダイビングであろうと、エントリーした後はほとんど動かずにその場で写真を撮っていた。
60分丸まる潜って満足して上がってきたら、ほかのダイバーをガイドしていたセイン・カミュ似のお兄ちゃんが、
「君が写真を撮っているすぐ後ろにサメが5匹いたよ」
と、気の毒そうに言った。
「それはすごく残念なことをした!」
と、一応は彼のためにそのようなリアクションをしたものの、実はぜんぜん残念ではなかったりする。
というのも、そこのポイントのイソバナに、冒頭の写真のエビと同じ(と思われる)エビがいたのだ。
なぜカッコ付きで「思われる」のかというと、イソバナがでかすぎて容易にエビまで近づけず、ショボイ写真しか撮れなかったため細部を確認できないから。
35mm幅の写真をルーペでいくら拡大してみたところで、そこに小さく写っている細部など見えるものではない。
撮ったその場でモニターで確認できるデジタル時代の到来は、まだ先のことだったのだ。
冒頭の写真は、モルディブで出会う以前に、水納島の水深40m付近にあるヤギについていたところを撮ったものだ。
窒素のせいでややボーっとしている頭で、
「これは初モノ!」
と喜び勇んで撮ったものの、2カット撮ったところでエビはピンッと跳ね飛び、どこかに逃げてしまった。
そのため、ヤギを宿主として暮らしているのか、たまたまここにいただけなのか、どちらかわからずじまいだった。
当時はまだ変態社会が勃興する前の前世紀のこと、図鑑やネット上で正体を知るすべはなく、長らく「ナゾのエビ」扱いになってしまった。
なのでモルジブで再びめぐり会った(と思われた)時は、サメなんか何十匹いようと関係ないくらいに本当にうれしかったのだ。
でも、そのことをガイドのお兄ちゃんに言ってもきっと理解されないだろうから(もちろん私の英語力の問題が大きい)、適当に相槌を打っておいたのであった。
その後世の中ではエビカニ変態社会が確立され、このエビ(と思われるもの)も図鑑に掲載されるようになった。
その名もカギヅメエビ。
図鑑によると、このようなピグミーシーホースが居てもおかしくないタイプのヤギについているそうだから、初遭遇時にピンッと跳ねて逃げた後も、きっと彼…いや、卵を抱えているから彼女は、ヤギのどこかにいたのだろう。
あいにく水納島にはこのテのヤギが生育しているのは岩場の相当深い場所くらいのものなので、その後探訪する機会がない。
今もカギヅメエビたちは元気にピンピンしているのだろうか?