(旧 Unknown 1)
体長 10mm
ニクイロクダヤギという、まったく目立たない狭苦しいところで、シュッ…と縮こまっているようなヤギの仲間がいる。
海中で見るかぎりまったくパッとしないヤギなんだけど、意外なことにけっこう魅力的なクリーチャーを住まわせていることが多い。
枝が複雑に入り組んだ狭苦しい隙間にいるものばかりなので、観づらい撮りづらい案内しづらいの3拍子が揃ってしまうところが玉に瑕ではあるものの、クダヤギクモエビあたりがいないかなぁ…とその狭い隙間を覗いてみたところ、冒頭の写真のエビが複数暮らしていた。
撮りづらいことこのうえないのはいつものことながら、初遭遇だということはすぐにわかったので、なんとか証拠写真を残すことができた。
冒頭の写真は肝心なところがクダヤギの枝に隠れていて見えないけど、別カットで確認すると卵を抱えている。
で、傍らには卵を抱えていない別個体もいた。
これと同じ個体だったかどうか、なにしろ9年も前のことだから(2013年)記憶にないんだけど、上から見るとこんな感じに見える(同じ種類のエビならば)。
ちなみに写真右下に見えるハサミ脚は、ここを覗いた本来の目的だったクダヤギクモエビ。
ニクイロクダヤギの群体自体がさほど大きくないから、そこに複数いると…
背後に写りこむほど近いところにいることになる。
それでも和気あいあいと暮らしているようだったから、本来グループで暮らすタイプのエビなのだろう。
モンダイは。
このエビの種類がまったくわからない……。
昔は撮った写真の正体がわからないということのほうが多かったものだけど、たびたび紹介している現在最新最強エビ図鑑「サンゴ礁のエビハンドブック」が刊行されて以来というもの、少なくともカクレエビ系では正体を探し求めて路頭に迷うことはまずなくなっていた。
でもこのエビに近いものが全然見当たらない。
ニクイロクダヤギで観られるということで、ひょっとしたら72ページ下段に掲載されているエビかな…とも思えるものの、写真1枚では比較のしようがないし、いずれにしろ未記載種っぽいから学名で画像検索することもできない。
撮ったのは9年も前のことだから、まことにもって今さらながらで恐縮ですが、ご存知の方テルミープリーズ!
※追記(2022年2月)
まったく別のエビのことについて調べていたところ、「千葉県でみられるカクレエビたち」という、タイトルだけ見ればどう考えても変態的な冊子のPDFファイルをネット上で見つけた。
これは千葉県立中央博物館分館「海の博物館」が刊行している冊子で、「海の生きもの観察ノート」というシリーズの15巻目で、2020年3月に発行されたものだ。
同じ変態は変態でも、れっきとしたアカデミック変態社会の科学研究冊子なのである。
海の博物館といえば、各種甲殻類図鑑の監修者としてお馴染みの奥野淳兒先生が主任上席研究員として勤務されているところで、この冊子の執筆・撮影はすべて彼の手による。
最新情報満載の冊子をPDFファイルにてネット上にアップしてくれていることに感謝しつつ、ページをつらつら見ていたところ…
なんと!ここでUnknown1として紹介していたこのエビが載っている!!(10ページ)
その名もヤイバカクレエビ(Michaelimenes perlucidus)。
掲載されている写真といい、その特徴といい、クダヤギの仲間に特異的に共生することといい、ひとつの群体に20個体くらいいることもあるということといい、どこをとってもこれ以外にあり得ないと私は確信した。
というわけで、これまで短い間Unknown1として紹介してきたエビは、本日をもってヤイバカクレエビとするものであります。