甲幅 80mm
水納島で暮らすようになるまで、軽石というとかかとの角質部分をゴシゴシやるための風呂場の備品、という程度の認識しかなかった。
ところが越してきてから島の海岸を歩いてみると、けっこうな数の天然の軽石が転がっていることを知った。
握り拳大ものが多く、波に洗われて角がとれているから触り心地も気持ちいい。
ひところは当たり前のようにあったのだけど、やがてレアものになり、いつしか滅多に目にしなくなっていた。
それもあって、リニューアル前のこのカニの稿で、私は↓このように書いていた。
「どうやら海底火山はおやすみ中らしい。軽石は欲しいけれど、ドカ~ンと一発でかいのが来たらちょっと怖いなぁ…。」
ホントにドカ~ンと来ちゃった…(小笠原の海底だけど)。
まさかこんなに多量の軽石が沖縄に流れ着くことになろうとは…。
まだ完全におさまりきっているわけではない2021年秋の軽石騒動、ご存知ない方はこちらをご参照ください。
この軽石騒動のために「軽石」という語感がすっかり変わってしまった2022年現在とは違い、軽石をかかとゴシゴシアイテムとしてしか知らなかった学生時代の私は、冷やかし半分に受講した「岩石鉱物学」という聞くだに武骨そうな地学系の授業で、軽石というものは実は火山が噴火することによってできるものであることを知り、今でいうならジオパーク的にたちまち見る目が変わってしまった。
のんきにかかとをこすっている場合ではない。
ではどうすればいいのだ?
カルイシガニに出会った(冒頭の写真)。
軽石とは関係ないけど…。
カルイシガニと遭遇したのは遊びでナイトダイビングをしていた前世紀のことで、当時ダイビングクラブ内では禁止されていたナイトダイビングだというのに、内緒でこっそりならOKといってズルをした(もう時効成立)、当時の学生ドレイ・ペプシマンも一緒に連れていた。
元水球の主力選手なのでダイビングの技量はどこに出しても恥ずかしくないペプシマンながら、生物知識的にはかろうじてヤシャハゼとヒレネジの区別はつく程度のサル頭の彼のこと、カルイシガニなど見てもカニだとわかるまでに30分くらいかかるかもしれない。
でもせっかくだからとカルイシガニを指し示したところ、案の定「ハァ?」という反応しか返ってこなかった。
カルイシガニに反応できなかった彼は現在、JAMSTECに勤務し、それこそジオパーク的地球の科学探求に精を出している。
もっとも、こうして写真でカニだけを写せばカニに見えはしても…
…暗闇の中でライトに照らされている限られた範囲にこんなものがいたって、即座にカニ認定できるのは変態社会系の方々くらいのものだろう(この個体はハサミ脚が片方無い状態です)。
なにしろ体の表面はデコボコで、ちょっとやそっとでは動かないからそのあたりに転がっている石ころとそっくりなのだ(だからといってこれを軽石というのは少し無理がある気もする)。
夜に潜ればわりと出会う機会があることを知ったのは、夜に潜る機会がすっかり無くなってしまってからのことだったため、その後カメラを携えている時に出会ったカルイシガニといえば、せいぜい↓これくらい。
傍らに転がっている巻貝の貝殻は長さ2cmくらいのものだから、人生最小級のカルイシガニだ。
ホントにカルイシガニか?という一抹の不安がないわけではないのだけれど、カルイシガニじゃなかったら誰?となると他に誰もいないので(※個人の能力です)、カルイシガニ認定。
フィルム時代に撮ったものだから随分昔のことで、夜にいったいどうやってこんな小さなものを見つけることができたのか、今となっては記憶の欠片も残っていない。
ともかくも撮っていたおかげで、かろうじて記録は残ったのだった。