甲幅 20mm
人の名前や、その地の特産というわけではないのに地名が入っていたりする和名は数多く、その場合名前から特徴を類推するのは至難のワザ…というか不可能だ。
一方、特徴的な行動や見た目の特徴が名前になっているものは、たとえ実物を観たことはなくても、ある程度想像できることもある。
このケブカガニなどは、ある種のすがすがしさすら感じるくらいにわかりやすい、そのものズバリの名前だ。
もっとも、潮間帯がもっぱらの暮らしの場だから、ダイビング、それもボートダイビングで出会う機会は絶無であるといってよく、ダイバーの中にはご存知ない方も多いかもしれない。
その名のとおり毛モジャモジャで、動かなければ生き物かどうかわからないほどだけど、干潮時にできるタイドプールに多く、ちょっと歩くだけでそこにケブカ、ここにもケブカ、あっちにもこっちにもどこにもケブカ…というくらいにいくらでも見つけることができる。
なので、春の大潮時に潮干狩り(沖縄風の)をする機会が多い方にはお馴染みのカニでもある。
そうはいっても食べるもの目的で海を歩いている人々にはまったく対象外のサイズだから、姿が姿だけになにやらゴミの塊のようなものが動いている…程度にしか思われていないかもしれない。
同じ「毛」持ちでも、毛ガニとは扱いが全然違うのだ。
この「毛」は藻ではなくてもともとカニの体の一部で、水中にいればこそ毛がフサフサしているように見えるけれど、陸に上がってしまうと…
なんだかシャンプー直後のヨークシャテリアのように別の生き物状態になって、毛に覆われていた体の輪郭がわかるほどになる(ちなみに冒頭の写真と同じ子です)。
ただしそれも見る側がカニだと知っていればこそで、水中に居ても陸上に居ても、ケブカガニたちはきっとこの毛深さのおかげで、何度も難を逃れていることだろう。
永久脱毛なんてしちゃったら、あっと言う間に命を落としてしまうに違いない。
ケブカガニにムダ毛など1本もないのである。