(Pontonides maldivensis)
体長 10mm(写真は8mmほど)
白い砂が広がる砂底のポイントがメインの水納島なので、多くのゲストにとってドロップオフ環境は身近ではないのだけれど、岩場のポイントの深いところは崖状になっており、そこにはナンヨウキサンゴ(ナンヨウイボヤギ)が大きく育っていることもある。
若い頃にはそういうところも精力的に訪れたりもして、なにか気になるエビカニでもいないかなぁ…とサーチしていた。
するとそのナンヨウキサンゴの表面に、シュパッシュパッと動く小さな物体を見つけた。
エビだ。
そのずんぐり体型からは想像もできない素早い身のこなし。
カメラを近づけるとすぐにシュパシュパ動いて枝の裏側に隠れてしまうため、撮影はなかなか難しい。
アヤトリカクレエビがかつてクルクルカクレエビという俗称で呼ばれていたのは、宿主のイソギンチャクの周りをクルクル回ることからそう呼ばれていたのだとすると、コイツはシュパシュパカクレエビだ。
…という勝手な命名とは関係なく、アカデミズムの分野では既知のエビだったようで、2000年に刊行された「海の甲殻類」にて「キサンゴカクレエビ」の名前がようやく世に出てきた。
それ以来ずっとこのエビのことをキサンゴカクレエビと信じてきたのだけれど、2013年に出た現在最強エビ図鑑「サンゴ礁のエビハンドブック」では、キサンゴカクレエビとは別に、ナンヨウキサンゴ専属のカクレエビ「Pontonides maldivensis」として掲載されているではないか。
ダイバー憧れの地モルディブの名を冠しているあたり、変態社会もついに海を越えてインド洋まで…
…と思いきや、この名で記載されたのは1915年のことなのだった。
こと博物学系にかけては、西欧社会の変態度は筋金入りなのである。
学名はあってもまだ和名が無いため、ここではキサンゴカクレエビの親戚と呼ぶしかないこのエビ、せっかく由緒正しい正体が明らかになったのはよかったものの、ナンヨウキサンゴが観られる深いところでエビカニサーチができるような眼の機能が無くなってしまった私なのだった…。