体長 5cm
ナイトダイビングをしているときに、なにやら毛羽立っているものが目の端で動いた。
ライトを向けてみると、冒頭の写真のエビがいた。
といっても、これじゃあどこにエビがいるんだかわからないけど、チラッと写っている脚のトラ模様からして、どうやらキタンヒメセミエビらしい。
その昔潜っていた伊豆の大瀬では、親戚筋のヒメセミエビをよく見かけた。
ヒメというだけあって、さすがにこのサイズを見て食欲をそそられる人はいないだろうというほどに小柄なセミエビで、基本的に夜行性のようだ。
伊豆でそのヒメセミエビを日中によく見かけていたのは、天気が悪かったり濁っていたりして、海中が暗かったからなのだろう。
出会ったヒメセミエビたちはいずれの場合も動きが鈍く、どんくさいヤツ…という感じだった。
ところがこのキタンヒメセミエビときたら、セミエビとほぼ変わらぬ体型からは想像できない動きを見せる。
脚を使うのではなく、腹部を使ってピンッと跳ねるように移動するのだ。
水温が高いために代謝が高まり、動きも活発になるってことなのだろうか。
そんなこととはつゆ知らず、なまじ伊豆でゆったりモードのヒメセミエビと接していた過去があったために、ウカツにカメラを向けすぎて、結局1カット撮っただけで終了。
キタンヒメセミエビは再びピンッと跳ね、どこかへ行ってしまった。
のっぽさんのともだちのゴン太君のような顔をしているくせに、とんでもなく素早い。
生体に出会ったのは後にも先にも前世紀に見かけたこの1度だけで、なおかつ冒頭の写真1枚しか撮れなかった。
そのかわりに、脱皮殻ならこれまで2度ほど見つけたことがある。
生きている写真だと誰やらわからなくとも、脚のトラ模様、腰(?)の多角形模様はまぎれもないキタンヒメセミエビの特徴(目玉が無いのが脱皮殻の特徴)。
夜行性のため日中は脱皮殻にしか会えず、今世紀になってからはナイトダイビング自体をあまりしていないので断定できないけれど、脱皮殻でさえさほど多く見られないということは、水納島にはそんなに多くはないのだろう。
もし再会のチャンスがあれば、ピンッ!と跳ねて逃げていく彼らの素早さをふまえ、慎重にお近づきになってみたい。