エビカニ倶楽部

クレナイヤドカリテッポウエビ

体長 30mm

 小さなエビ・カニの仲間には、何かに隠れて生活しているものが多い。

 なかでも他の動物を拠り所にしているものが実に多く、サンゴやイソギンチャクなどの刺胞動物であったり、ナマコやウミシダ、ヒトデといった棘皮動物であったりと、宿主はエビカニの仲間とは血筋(?)的に無縁の動物であることがほとんどだ。

 ところがクレナイヤドカリテッポウエビは、血縁関係でいうなら親戚筋といってもいいヤドカリを身の置き所にしているという点で、かなりの独自路線を歩んでいる。

 コモンヤドカリなどやや大型のヤドカリの貝殻の中に住んで、いったい何をしているんだろう…と思ったら、クレナイヤドカリテッポウエビはヤドカリの排泄物や食べ残しをいただいているらしい。

 ヤドカリにとって便利な掃除屋さんになることによって、安全保障つきでしかも3度の食事も保証されているという、得難い居候先を手に入れたわけだ。

 それにしても、ヤドカリに宿を借りて居候だなんて、賃貸契約上届け出ていない同居人のようなもの。住むほうも住むほうだけど住ませるほうも住ませるほうだ。

 もっとも、クレナイヤドカリテッポウエビがそのまま一生同じ居候先に居続けるのかどうか、そのあたりはまだわかっていないらしい。

 このエビカニ倶楽部で何度も紹介している新星図書出版「沖縄海中生物図鑑」の甲殻類(エビ・ヤドカリ)編では、クレナイヤドカリテッポウエビはヤドカリの殻内に入る際に、ハサミ脚で殻の入り口付近をノックノック!すると述べられていた。

 そんなエビがいるなんて!

 すぐさまひと目逢いたしと恋焦がれたものの、ヤドカリの殻の中にこもっているエビなんていったら、ヤドカリを引っ張り出しでもしないかぎり姿を見るのは無理……

 …いや。

 ノックノックするということは、外に出ていることもあるわけだ。

 私がこのクレナイヤドカリエビと出会ったのは前世紀、エビカニを求めてナイトダイビングをしていた時で、ビーチエントリーでリーフを越えて外に出ようとリーフ上の浅いところを通過中、ラッキーなことにたまたまヤドカリからトコトコ出てきたところに遭遇した。

 もしかしたら、夜ごとハニーと出会うための外出だったのかもしれない。

 決意も新たに貝殻から出てきた途端、初遭遇で興奮状態の私のストロボビカビカ攻撃に遭ったクレナイちゃんは、自宅の玄関を出た途端マイクとカメラを向けられるスキャンダル禍中の有名人の気持ちを理解したことだろう。

 ↑カメラに背を向け走り去る渦中のヒト……の図。

 宿主のコモンヤドカリは照らしたライトに驚いて早くも岩の間に逃げてしまったので、ヤドカリと一緒のところを撮れなかったことが今となっては悔やまれる。

 でも夢のクレナイヤドカリテッポウエビに出会ったその時に、コモンヤドカリなど二の次三の次、いやいや百の次くらいだったのはいうまでもない。

 ところで、家主と離れ離れになったクレナイちゃんはその後どうしたのだろう?

 もともと夜ごと滞在先を変える暮らしなのであれば、ハニーとのデートのあとに、また別のヤドカリさんの玄関口をノックノックしていたのかな?