エビカニ倶楽部

メンコヒシガニ

(ヒメメンコヒシガニかも)

甲幅 30mm(写真は10mmほど)

 冒頭の写真はまだ小さくて目立たないためかたまたま岩の上にいたもので、カメラに対して雄々しく立ち上がってお腹側を見せているけれど、「メンコ」というだけあって彼らの体はとんでもなく平たい。

 ↑これは甲幅が10mmほどのチビで、3cmほどになってもその体形は変わらない。

 薄っぺらい体型に眼を奪われがちだけど、ハサミ脚の形状もかなり特徴的で、上から見ると両サイドで甲羅に隠れるようになる。

 そのハサミの形は…

 なんだか右手で左手をかけないのでは…とさえ見えるけれど、ハサミとしてはちゃんと機能するようだ。

 また、薄っぺらくはあっても背中に突起があって、別の個体ではその形状に違いが観られる。

 ↑これを上から見ると…

 先に挙げたチビと様子が随分違っている。

 そのハサミに注目すると、チビチビのハサミの周りはギザギザしているのに対し…

 後者にはギザギザが無い(目立たない)。

 これらの違いに鑑みれば、おそらくチビチビのほうがメンコヒシガニで、後者がヒメメンコヒシガニだと思われる。

 メンコであれヒメメンコであれ、このような体形を利用していないはずはなく、日中の彼らはもっぱら石の下に潜んでいる。

 他の稿でもたびたび触れているように、変態社会にはメクリストと呼ばれる方々がいて、彼らは石があったらひっくり返さずにはいられない。

 石をめくるといってもそこには他の生き物をも慮るマナーが必要で、その道徳を身につけないかぎり「メクリスト」の称号は得られない。

 ゴッドハンドO野さんは極め付きの名誉メクリストで、エビカニが潜んでいそうな気配を発している石をひっくり返しては、その下に潜むエビ・カニをサーチする。

 ひっくり返すといっても、ただ石をめくって眺めるだけではない。石と同化してついつい見過ごしてしまいそうな生き物を逃さずチェックできるように、懐中に忍ばせた七つ道具を駆使して、1つの石を実に丹念に精査されている。

 そして誰も見たことがないようなイキモノを、次々に発見されていく。

 そのヨロコビを自分だけで完結するのではなく、一緒に潜っている人たちと分かち合うべく、専用の透明な容器(ゴッドハンドシャーレ)に入れて、その後通りかかる他の人々にわざわざ見せてくださるのだ。

 まさに神の手。

 そんな彼がひとところにしばらくジッとしているとなると、それはつまり何か面白いものがいる、ということなのである。

 ある年のGWに、海底でゴッドハンドO野さんがジッとしていた。

 近寄ってみると、そこには…

 ヒメメンコイシガニ(メンコヒシガニかも)がいた(本来はこういうふうにサンゴの上に載ってません)。

 30mmほどと大きく、ゴッドハンドO野さんいわく、「こんなに大きいのは初めて」ということだったけど、そもそも私はこのカニを海中で見ること自体この時が初めてだった。

 それにしてもこんな体でちゃんとエサを食べているんだろうか?食べたエサを消化できるんだろうか?

 …と余計な心配をしていたところ、図鑑によるとこのカニは、時には他のカニをバリバリ食べちゃう獰猛なプレデターらしい。

 この薄っぺらいカニにやられてしまうカニっていったい…。

 近年の私は石をめくらなくなっているから、このカニに会う機会はまずない。

 でも冒頭の写真のように最初から外に出ていることもあるのだから、いずれ再会したい。

 ゴッドハンドO野さんの傍にいたほうが早いだろうけど…。