(オランウータン・クラブ)
甲幅 5mm
古いダイバーは、「ミナミクモガニ」といういたってシンプルな和名を聞いても、「?」マークが頭の上に並ぶことだろう。
でも冒頭の写真をご覧いただければおわかりのように、ついこのあいだまでオランウータン・クラブと通称されていたあのカニのことだ。
中にはクラブを「倶楽部」と勘違いし、類人猿のサークルのようなイメージを持ってしまった方もいらっしゃるかもしれない。
クラブとはもちろんcrab、カニのこと。
茶色い毛むくじゃらの容姿がオランウータンに似ているカニってことで、通称は広くあまねく認知されていた。
ところが2016年にようやくつけられたミナミクモガニという和名は、シンプルなのはステキにしても、このカニ独特の毛むくじゃらの容姿がまったく反映されていないあたりが少々残念だ(※個人の感想です)。
どうせだったらケッコウクモガニなんて名前でよかったのに(※個人のセンスです……なんで「ケッコウ」が毛むくじゃらを表すのか、悩むだけ損ですからわからない場合はスルーしてください)。
さてこのオランウータンクラブあらためミナミクモガニは、ミズタマサンゴや近縁の刺胞動物に身を寄せていることが多い。
水納島の場合、最も遭遇頻度が高いのはミズタマサンゴで、ときには2匹でいることもある。
現在に比べて遥かにナガレハナサンゴが多かった頃は、ナガレハナサンゴでもちょくちょく出会えたほか、珍しいところではハナガササンゴや…
ヤギの枝……
また、サンゴ自体が珍しい種類というケースもあった。
このようにたいてい刺胞動物に寄り添って暮らしているミナミクモガニなのだけど、どういうわけだか↓こんなこともあった。
樹上生活者のオランウータンは、股関節だったか骨盤だったかが樹上生活適応状態になっているため、地上歩行はかなり苦手なのだそうだけど、このミナミクモガニも砂底の上を歩く様子はかなりぎこちなく見えた(見た目のせいかも…)。
こうしてツラツラ見てみると、いろんなところで会えることがよくわかるミナミクモガニ。
しかしなんの情報も知識もなしに目にしたら、とても生き物とは思えないかもしれない。
そこに何かあるということには気づけても、せいぜい千切れた藻がたまたま乗っかっているだけにしか見えないのだ。
ひょっとして、これってカニ?と疑ってじっくり見て、ついにこれがホントにカニであるということを知った時のセンスオブワンダー的オドロキは、1度知ってしまうと2度と味わえない。
まだ海中で見たこともないのにこの稿を読んでしまった方、海で味わえたはずの大きな楽しみのひとつを奪ってしまってすみません。
カニだとわかった時のオドロキは大きくとも、そもそも地味な色合いでなおかつ毛むくじゃらだから、おそらく昔は見向きもされていなかったことだろう。
それが「オランウータン・クラブ」という通称が広まり始めた頃から、人々が興味を持って接するようになってきた気がする。
当時からミナミクモガニだったら、このカニが市民権を得るまでさらに時間がかかったことだろう…。
さて、この毛むくじゃらの物体がカニだと知ってからじっくり見てみると、このカニの眼がなにげに燃えるような赤色をしていることに気づく。
燃える赤い瞳で何を見ているのかは知らないけれど、自分の体がどうなっているかということくらいはしっかり把握しているのだろう。
ところでこのカニを特徴づけている毛むくじゃらの色味には、それぞれ濃淡に違いが観られる。
この毛むくじゃらは体表に生えた海藻ということになっているから、であれば海藻の色味の違いということになる。
色が濃く量も多い場合はホントに毛むくじゃらなのに対し…
薄いものだと、脚のあたりの本来の色味がかなりハッキリ透けて見えることもある。
毛むくじゃらという1点だけを根拠にみんな同じ種類のカニだと信じてきたけれど、毛ならぬ藻をむしってみれば、実は何種類かいる…なんてことになったりして。
その際には「ケッコウクモガニ」もひとつよろしく…。
< しつこい。