(Phycocaris simulans)
体長 10mm
ナガレモエビという、いささか風流な名前こそ80年代後半にはすでに世に出ていた「沖縄海中生物図鑑・甲殻類編」に掲載されていた。
しかしそこに載っている写真のエビが私が観ているエビとビンゴ!とは思えず、私の中では2000年に刊行された「海の甲殻類」に載っている写真を見て初めて、それまで観ていたエビがナガレモエビであることがわかった。
ただ、ようやくわかったと思ったら、そこには「最近、本種とその近似種の間に分類学的混乱が生じていることが明らかになった」と述べられており、もともとつけられていた種小名はとりあえず「sp.」扱いに変わっていた。
ところが2013年に登場した「サンゴ礁のエビハンドブック」では、ナニゴトもなかったかのように旧来の学名とともにナガレモエビとして掲載されている。
混乱はおさまったのだろうか?
たとえアカデミズム方面の混乱はおさまっても、末端ユーザー(?)の私はその後混乱する一方だ。
なにしろ冒頭にズラリと並べたように、「ナガレモエビ……かな?」と思えるエビが十匹十色なのだ。
エビが宿主の色に応じて体色を変えることができるというのはわかるけれど、図鑑に載っている写真といえばたいてい緑色系だから、茶色っぽいものは当初別のエビかと思っていたほど。
BとCに至っては、どちらもガヤについているのに色がここまで違う。
これは直接ついているガヤの色がたとえ同じでも、周囲の藻の色が両者で異なるからのようだ。
体色は相当器用に変えられるようで、瑞々しいサボテングサについているものは、鮮やかな緑色。
それに対し、冒頭の写真上段左端の子ときたら、枯れかかっているウミヒルモの葉の枯れ具合いに似せている。
そんなナガレモエビだから、ある日大きなナマコを引っくり返したときにそこに載っているのを見たときは驚いた。
カモフラージュ作戦でサバイバルをするナガレモエビとしては、あってはならない悪目立ちぶりだ。
ま、私がナマコを引っくり返しさえしなければ、隠れていられたのだけど…。
でも一度そういうことがあったおかげで、Aの写真を撮って、「ヒトデヤドリエビがナマコに??」などと慌てることなく、これもまたナガレモエビであろうということを冷静に理解できる。p>
でも上から見たんじゃ特徴的な腰の曲がり具合も確認できないから、横からも…
…と思ったら、前後に別カットはなく、上から撮った1枚キリしかなかった。さすが私……。
上から撮ると確認不能ながら、「サンゴ礁のエビハンドブック」によれば、「背の中心線上に羽毛状の毛の束が並んで生えており…」と記されている。
その「羽毛状の毛の束」というのが↓これのことで…
…なおかつそれがナガレモエビだけの特徴なのであれば、少なくとも冒頭にラインナップしてあるエビたちはみなナガレモエビだ。
大きくても1cmほどと極小のエビだから、クラシカルアイの方にご案内する甲斐はまったく無いエビながら、けっしてレアなエビというわけではないけれど、ある一定年齢以上の方々には存在していないも同然のエビ、ナガレモエビ。
ということはつまり、当店ゲストのほとんどの方にとって「存在していない」わけだから、これはホントにナガレモエビなんだろうか?なんてことをクヨクヨ考える必要はまったくなさそう…
…ではあるのだけれど、それでもやっぱり気になるのは、かつてこのコーナーでナガレモエビとして紹介していた↓このエビは、ホントにナガレモエビなんだろうか…ということ。
先ほどの「羽毛状…」はどこにも見当たらない。
もし違っていたら、長い間別のエビをそのように紹介していたことになるんだけど、じゃあこのエビは誰?
やっぱナガレモエビかな?混乱はおさまったようだし……。