エビカニ倶楽部

ナカザワイソバナガニ

甲幅 7mm

 このカニと初めて出会った(と思った)のは、前世紀末の99年のことだった。

 岩場のポイントのやや深いところにオレンジ色のカラマツが育っていて、ビシャモンエビがついていることがあるから、そのポイントの要チェックポイントのひとつになっている。

 そのときもビシャモンエビはいないかな…とたくさん伸びている枝をサーチしていたところ、カラマツの根元のほうに妖しく潜んでいたのだ。

 99年当時世に出ていた図鑑ではまったく見当たらないカニだったから、コイツを見つけた私は、きっと世の中の誰も知らない未知のカニに違いないと信じ、海の中で狂喜しまくった。

 ところが、過去に撮った写真を後日振り返っていたところ、その6年も前に一度撮影していたジジツが発覚した。

 撮影地はお向かいの伊江島、しかもまだ客として水納島を訪れていたときのこと。

 イソバナガニに似ているけどなんていうカニなんだろう……と疑問に感じたのを最後に、以後6年間ずっと写真ファイルの中に埋もれたままになっていたのである。

 もっとも、6年前の時点で調べてみたところで、「クモガニの1種」とか「イソバナガニの仲間」という結論になっていたことに違いはなかったろう。

 翌年出版された「海の甲殻類」にてナカザワイソバナガニなる和名を初めて目にし、その後世間でこの名が一般化していくにつれ、昔撮ったこのカニがナカザワイソバナガニであると確信を持つに至った。

 図鑑的解説では、頭のツノが先に行くにしたがい細くなるというところがイソバナガニとの相違点、ということになっている。

 ただ、実際に海中で観るナカザワイソバナガニは、標本のように甲羅の形状がよくわかる状態ではなかなかいてくれず、特に頭のツノの先にはたいてい藻が生えている(自分で移植している?)。

 「ツノが先細り」と信じて見たならば、先が細くなっているように見えるけれど…。

 また、随分小さな若い個体だと、先が細くなるというほどツノが長くない。

 というわけで特徴的なはずのツノはまったく特徴にならないので、カラマツ系に暮らしている地味なイソバナガニ系はすべてナカザワイソバナガニ、と拡大解釈することにした。

 根拠はただそれだけなので、ここで紹介しているものがホントはザ・ナカザワじゃなかったとしても、どうかご寛恕くださいませ(そしてそっとご教示ください)。

 そんな独断ナカザワイソバナガニは、おおむねわりと深めに育つカラマツ系を好むようだ。

 必然的にそのようなカラマツ類が育つ環境にはなかなかない水納島の砂地のポイントでは、彼らに出会う機会はほとんどない。

 過去に砂地のポイントで見かけたことがあるのは、↓これ1匹のみ。

 白い砂底のために周辺が明るいからか、暗い岩場で見かけるものよりもいささか体色が淡い気がする。

 出会えるのはもっぱら、岩場のポイントのやや深い場所になり、イソバナガニが暮らしの場に体色を合わせているように、ナカザワイソバナガニも環境に合わせた色になっている。

 すなわち、けっこう地味。

 そのため、今のように存在が一般化しているときに目にしたとしても、出会えたヨロコビはさほど感じられないかもしれない。

 一般的には謎のカニだった時代にファーストコンタクトができて、よかったよかった。

 …6年も忘れたままだったけど。