(雪ん子帽子ガニ)
甲幅 5mm
エビカニ変態社会が帝国への道を歩みだすのと時を同じくするくらいのタイミングで、変態社会ではユキンコボウシガニなる通称とともにかなり親しまれるようになったオガサワラカムリ。
そのスタイルといいサイズといい通称といい、かなり一般ウケするポテンシャルということもあって、エビカニ変態社会内に留まらず、多くのダイバーの間で人気を博すこととなった(それもまた一般社会から見れば変態社会という…)。
通称に比べればとてつもなく素っ気なく味気なく芸がない和名になったのは、ユキンコボウシガニが名を馳せる前に記載されていた小笠原産のカイカムリと同じ種類であることがわかってしまったからだという。
それ以前に小笠原で標本を採集したヒト、まったく余計なことを…と多くの人が思ったに違いない(※個人の推測です)。
私がこのカニさんの存在を知ったのは、すでに変態社会でユキンコボウシガニが名を馳せていた2010年のことで、とあるストロングな酒飲みのゲストから、
「ユキンコボウシガニが見たい!」
とリクエストをいただいたことがきっかけだ。
当時すでにダイビング雑誌を手に取らなくなって7~8年くらい経っており、ネットで業界の流行(?)を追い求めているわけでもなかった私は、恥ずかしながらそのときまで、ユキンコボウシガニなど見たことも聞いたこともなかった。
そこでストロング酒豪ゲストに伺ったところ、ダイビング業界ではその1年程前から話題になっているカニだという。
そしてそのゲストは携帯でわざわざ検索して画像を見せてくださった。
こりゃカワイイッ!
しかもネット情報によれば、お隣の瀬底島でもフツーに見つかっているというではないか。
それからというもの、目を皿のようにして水納島で探索したのだけれど見つからず、そのまま1年が過ぎてしまった。
ところがその翌春、何の気なしにチャツボボヤをつついてみたら、コソコソッと動くではないか。
もしや?
そっとつまんでひっくり返してみたら…
初遭遇♪(写真は初遭遇時のものではありません)
人生初発見時の感動は、ここで紹介している他のカイカムリ中ダントツナンバーワンといっていい。
その数日後には他の場所でも発見したことからすると、その前年はどうやら探し方が悪かったようだ。
とにかく想像以上に小さい。
一説によると本家小笠原のオガサワラカムリよりもナリが小さいうちから性成熟しているフシがあるそうで、オトナサイズがあちらとこちらとでは異なるのかもしれない。
初遭遇時は極小だったこの雪ん子は、発見してから1ヶ月以上同じところに居続けてくれたので何度もチェックしていたところ、ひと月後には成長したことがはっきりわかるほどに大きくなっていた。
被っているチャツボボヤもそれなりに大きくなっていたのだけど、これはカニとともに一緒に大きくなっているのだろうか。
それとも脱皮をしたあと、成長した体に合わせて一回り大きなチャツボボヤを探して被っているのだろうか。
これまで観たことがあるものはみな小さなチャツボボヤを被っていて、たしかにみんな「雪ん子」に見える。
けれど私なんぞがこのカニを最初に見つけてしまったら、プリシラが大好きなカリメロカムリになっていたかもしれない。
そんなカリメロな雪ん子改めオガサワラカムリも、やはり写真の中にホヤ全体を入れると体が小さくなってしまうから、体だけアップ。
小さいだけに眼が体に比して大きめで、なおかつオレンジというところがまた可愛さを倍増させている。
彼らが被っているチャツボボヤ、適当に被っているわけではなさそうで、ちゃんと両眼が活かせるよう、眼の周辺はちゃんと整形してある。
横から見ると…
なので伏せた状態で体をスッポリとホヤで覆い隠しても…
…視界は良好だ。
そんなこんなで、その年はクラシカルアイ化傾向が顕著になってきたゲストのみなさんへのイジメのようにユキンコボウシガニ改めオガサワラカムリで盛り上がっていた2011年なんだけど、その頃のエビカニ変態社会では、ユキンコボウシガニだなんていったらとっくの昔に「過去のもの」になっていたのだった。
最先端エビカニ変態社会の興味の対象は、デジタル家電なみに目まぐるしいのである。