エビカニ倶楽部

オイランヤドカリ et al.

甲長 20mm

 水納島でのボートダイビングなら、リーフエッジから水深20mの砂底まで、いろいろなところで目にするオイランヤドカリ。

 古くから知られていて、私にとってもお馴染みのヤドカリさんなんだけど、ひとつだけ不思議に思っていたことが。

 オイランヤドカリって、いったいどこが「花魁」?

 魚や草花にもちょくちょく見受けられる「花魁」の名を冠する生き物たちは、たいていの場合美しいもの、絢爛なものと相場が決まっている。

 ところがこのオイランヤドカリ、パッと見でもつぶさに見ても、なかなか「花魁」を思い浮かべるまでには至らない。

 ひょっとしてコモンヤドカリの「コモン」と同じように、私はとてつもない誤解をしているのだろうか?

 まさか「おいどん」ヤドカリだったなんてことは…

 …なかった。

 そう思っていたおり、「お!これは花魁かも…」と思える派手目のオイランヤドカリに出会った。

 出会った当初は異なる種類のヤドカリさんだと思ったものの、眼や眼柄、触角の色などは、オイランヤドカリとほぼ同じだ。

 当時調べてみたところ、オイランヤドカリには赤味の強いタイプもいるのだそうで、これはその「赤いオイラン」ということらしい。

 私にとってのノーマルタイプである冒頭の写真の子に比べればよほど美麗なこの赤いオイラン、その後もちょくちょく出会っていて、とりわけ若い個体はいっそう美しい。

 これなら「花魁」もナットクだ。

 ところが。

 分類学的研究という魔の手(?)はついにオイランヤドカリにも及び、この「赤いオイラン」はザ・オイランヤドカリとは別の種類である、ということになってしまったという。

 そのひとつが、さきほどの「赤オイラン」ことDardanus longior(和名はまだない…はず)。

 これでモンダイは解決したかと思われた。

 ところが赤いオイランには、これとはまた別の種類がいるという。

 でも沖縄で観られることはないのであれば、これ以上ややこしいことにはならないか…

 …と安心しつつ過去に撮ったオイランヤドカリ認定の写真を見ていたところ、

 ん?この赤オイラン、ハサミ脚の肘(腕節)のところの色がちょっと違っているぞ?

 ハサミ脚の肘は赤い帯だけじゃなくて、小さなトゲトゲごとに淡い紫色になっている。

 この特徴をもつ「オイラン」といったら、Dardanus sanguinolentus(和名は無い)?

 ってことは、↓これも…

 ↓これも…

 もひとつオマケに↓これも…

 みんな第2の赤オイランってこと?

 でもD. sanguinolentusには、眼柄の眼の直前部分がオイランヤドカリのように黄色くなるという特徴もあるらしい。

 けれど上の一連の写真を見るかぎりでは、眼柄のその部分はオイランヤドカリのように黄色くなっていないから、やはりこれはD. longiorということなのかも。

 ことほどさように、昔馴染みだったはずのオイランヤドカリは、ここにきて一気にややこしいヒトになっているのである。

 どれほど「花魁」のイメージとは程遠くても、わかりやすいアナタがステキに見えてきた…。

 ↑これは間違いなくオイランヤドカリ。

 ここで紹介しているものは単にその色味によって私が勝手に「この種類では?」と思っているだけなので、くれぐれも同定の参考になさらないようご注意ください。