甲幅 12mm
冬場にはほぼ日課になっている散歩では、海辺を歩くこともある。
冬とはいっても南国沖縄のこと、そよ風程度の晴れた日の海辺はポカポカ暖かく、お日様を満喫することができる。
そんな砂浜を特に目的もなくそぞろ歩きつつ、ときおり砂を手に取り眺めてみる。
かつて石川啄木は「いのちなき砂のかなしさよ」と詠ったけれど、サンゴ礁の海辺の砂はひとくちに「砂」といっても肉眼で確認できる構成成分は多彩で、ウニの棘、有孔虫の殻、サンゴのかけら、貝殻の破片など様々だ。
砂って本当にいろいろなものからできているのだなぁ…とあらためて感動させられる。
水納島は、海中にもそのような「砂」が一面に広がっている。
その昔ナイトダイビングをしていた時、この「砂」がモゾモゾと動くのを見つけた。
リーフ際の死サンゴ礫の間にやや細かい砂が溜まっているところで、ライトで照らしてみると3~4cmほどの砂の塊が移動していたのだ。
砂が動く??
これが3~4mものサイズだったら生命の危機ってところだけれど、それが何であっても勝てそうなサイズだから、近づいてじっくり見てみた。
砂に見えたものは、どうやら甲殻類っぽい。
さらによく見ようとしばらくライトで照らし続けると、光が嫌いだからだろう、砂から目だけが出るようにして砂中に潜ってしまった。
それではいつまでたっても埒があかないから、ちょっとゴメンしてつまんでみたところ、左右に鋏脚が張り出した立派なカニの姿が現れた(冒頭の写真)。
当時はフィルムだったから直後に撮った画像を観ることはできないので、記憶を頼りに後刻図鑑で調べてみたところ、これはオキナヒシガニであるらしいことがわかった。
オキナというのはおそらく翁、体表についている砂が白髪みたいに見えるからだろうか?
ひと月後くらいにようやく現像が上がって写真を確認してみたところ、カニ本体が砂に塗れているから輪郭などまったくハッキリせず、むしろ記憶のほうが鮮明だった…。
砂はワザと体につけているのか、こういった場所にいるから勝手に付いちゃっただけなのかはわからないけど、せっかく砂に同化しているのになんでまた動いちゃうんだろう。
雉も鳴かずば撃たれまい、カニも動かずば見つかるまいに…。
自らのカモフラージュ効果を、本人はいまひとつ理解していないのかもしれない。