エビカニ倶楽部

オオカイカムリ

甲幅 150mm

 カニの仲間には、後ろの2対、あるいは1対の歩脚で、何かを持つ(背負う)ものがいる。

 伊豆で潜っていたときによく見かけたミズヒキガニは、最後端の歩脚で海藻やらガヤの仲間やらを持っている姿が可笑しかった。

 カモフラージュというにはどう見てもバレバレだし、防御効果もなさそうなのに必死に背負っている姿が、なんだかいじらしく見えるのだ。

 あれはある種のファッションなのだろうか?

 カイカムリの仲間と総称されるカニたちも、「何かを背負うカニ」だ。

 カイカムリといいつつ、ホントに貝を被っているものは極めて少数派で、ほとんど他のモノを背負っており、オオカイカムリが背負っているのはもっぱらカイメンだ。

 オオカイカムリはカイカムリの仲間のなかでは名前のとおり断トツで大きなカニなのだけれど、他の小ぶりなカイカムリたちと同じく、なんとも器用に後ろの2対の歩脚をうまく使って随分と大きなカイメンの仲間を背負っている。

 ナリはでっかいんだけど眼は小さく、それが中央に寄っているから、ぬいぐるみに向いている顔かもしれない。

 まぁ~るいフォルムに小さなお目目、頑張れば「カイカムリン」ってゆるキャラになれるかもしれない?

 カイカムリたちの場合、後ろの1対ないし2対の歩脚はこういうものを背負うためだけに特化していて、最初からそれ以外の用途には使えなさそうな形をしている(らしい)。

 もはや「歩脚」ではなく「背負い脚」だ。

 オオカイカムリの甲羅はただでさえ薄茶色のビロードのような短毛で覆われているので(脱皮殻を触ってみると、この短毛の触り心地がステキ)、たとえ何も背負っていなくてもさほど目立たないだろうに、そのうえカイメンまで背負ったら完璧なカモフラージュになる。

 おまけに日中はほぼ暗がりでジッとしていて、姿を現すのは夜間だけ。

 もはや見つかる心配は皆無といっていい。

 ああ、それなのに。

 夜行性のエビカニ類の哀しさ、急にライトを当てられるとパニクッてすぐに光が当たっていないところへ逃げようとするものだから、いともたやすく発見されてしまうのだった。

 ヤバいッ!と思ったら、とにかくジッとしていればいいのに…。

 もっとも、そうして動いてくれたからこそ、存在に気がついて写真を撮れたんですけどね。

 それにしても、ヤドカリに背負われたイソギンチャクは、労せずして移動できるという利点がある、ということになっているけれど、カニの背中に載せられているカイメンにとって、それははたしていいことなのか悪いことなのか…。

 せっかく居着いていた安住の地から無理矢理剥がされているのは間違いないわけで、しかも日中はカニともども暗がりに封印され、外に出てくるのは夜間だけ。

 そういう意味ではずっと囚われの身生活が続くようにも思えるけれど、カニが移動することによって、カイメンを食べる外敵を避け続けられるという利点があるのかもしれない。

 日中は頑なに暗がりにいるため、会えるのはせいぜい脱皮殻くらいのオオカイカムリ。ナイトダイビングをしなくなって久しい私は、随分ご無沙汰している。

 その巨大な姿を拝むには、ビールをガマンして夜中の海に繰り出すしかない…。