体長 20mm
洞窟の水系に住む魚の眼が退化してしまっているのと同じで、普段の暮らしでも仕事でも着飾る必要がまったくない私は、「オシャレ」とは縁はないものと決めて久しく、もともと低かったその方面の能力はすっかり退化してしまっている。
今結婚式なんかに招待されてしまったら、目も当てられないことになってしまいそうだ。
そんな私が言うのもなんだけど、オシャレと名の付くこのエビ、いったいどのあたりがオシャレなのだろう?
鋏脚の先だけほんのりオレンジ色という慎ましやかな彩りが、命名者のオシャレ感だったのかなあと思ってみたりする。
透明ボディに控えめなカラーリングのため、オシャレカクレエビはさほど目立ちはしない。
でも小さなエビカニも興味の対象になってくると、やたらとたくさんいることに気づくようになる。
カクレエビの仲間でありながら、他のカクレエビの仲間のようにほかの生き物を拠り所にすることはなく、なんの変哲もないちょっとした岩陰に寄り添うようにして、砂底に佇んでいる。
たくさんいるといっても群れているわけではなく、同じような場所に何匹もいる、といった塩梅だ。
岩陰を隠れ家にしているのだけれど、隠れているにしては左右のハサミ脚がやけに立派で、なかなか戦闘的なフォルムをしている。
オスのほうがより立派なハサミ脚で、片方だけになっているものもちょくちょく見かけるのは、他の生き物と戦っているためか、はたまたメスを巡るライバルとの争いのためか。
いずれにせよ、交尾のために囲っているメスを抱え込む際には、両方無いと不便っぽい。
またオシャレカクレエビは戦闘的フォルムとは裏腹に、意外にもスカベンジャー生活を送っている。
立派なハサミ脚も、糞を掴むのに役立っているようだ。
クリーニングをするものや藻食のエビを除くと、エビが食事をしているシーンを観るのはなにげにレアなんだけど、オシャレカクレエビのエサ、すなわちフンは他の生き物がいるかぎりほぼ無限にあるためか、彼らが食事をしている様子はかなり頻繁に見ることができる。
フンだけではなく、甲殻類の脱皮殻も彼らにとっては御馳走のようだ。
↑これじゃ小さすぎてなんの脱皮殻かまったくわからないけれど、ときには↓こんな立派な殻も食べている。
…ってこれ、ホントに殻なんだろうか?
このオシャレカクレエビが「おッ!?」と思ったであろうところから観ていたから、少なくとも最初からこのコシオリエビが動かなかったのは確かで、コシオリエビなのに腰を伸ばして運ばれようとしているところからもそれはわかる。
これが死体であれ脱皮殻であれ、オシャレカクレエビが海底の掃除に役立っているには違いなく、そのうえフンまで始末してくれているのだから、スカベンジャーとしての彼らのシゴトが無かったら、海底は大変なことになるだろう。
オシャレというものは、なにも綺麗に着飾ったり高価なアクセサリーを身につけることばかりではなく、その生き様の軽やかさ、清々しさ、美しさもまた大事な要素のはず。
なるほど、オシャレカクレエビの「オシャレ」とは、海底掃除人として生きる彼らの生き様を称しているのかもしれない。
賞賛の目であらためて彼らを眺めると、慎ましく生きる彼らは徐々にバックし、やがて岩の陰に隠れてしまうのだった。