エビカニ倶楽部

オトヒメエビ

体長 8cm

 埼玉に住んでいた頃、だんなと一緒に八丈島へ潜りに行ったことがある。

 2人とも沖縄でばかり潜っていたダイバーだから、テングダイ、ユウゼン、レンテンヤッコといった沖縄では超レアな八丈ならではの魚たちを見て、とても感激したものだった。

 ところが、普通に見られるこれらの魚たちは、現地のガイドさんにはあまり相手にされない。

 ガイドさんは熱心に、アケボノチョウチョウウオ、タテキンベビーなどのいわゆる死滅回遊魚を我々に案内してくれる。

 もちろん、八丈島でこれらが見られるということについてのおもしろさもわかるけれど、初めて来た我々は一にも二にもユウゼンやレンテンヤッコを見続けていたかった。

 それでも、ガイドさんが穴の奥の方からなにやら手前に引き出し

 「ほらごらん、これがオトヒメエビだよ!」

 と指し示されたときなどは「おおっ」と目を丸くして喜んだフリをして、お客として随分気を使ったものだった。

 ガイドをなりわいとしている現在、ある程度の経験を積んでいらっしゃるゲストを案内している場合、八丈島でのユウゼン同様、そこらじゅうにいるオトヒメエビなどはわざわざ指し示したりはしない。

 逆に、これまで伊豆ばかりで沖縄は初めてです、という人には、やっぱり沖縄導入ネタを一通り、ということでオトヒメエビの出番になる。

 でも、もしかしたら珍ネタとして伊豆でも見ているかもしれないので、単にオトヒメエビを指し示すだけじゃなくて

 「たいていオスメスペアでいます」

 とか(暗がりで反対向きになっていることも多い)

 「胸の紫色がきれい」

 とか

 「2cmほどのチビチビは別の種類のエビみたいに見えます」

 とか

 「乙姫なんて名前だけど一つの水槽にたくさん入れると死闘を繰り広げます」

 といったほんの少し説明をくわえたりするのであった。

 とはいえ、普通に見られるから魅力がない、ということでは決してない。

 オトヒメエビだって、たまにクリーニングっぽい行動もする。

 あんまり熱心じゃないけど。

 そのほか、卵をかかえているヤツもいるし、ちょっと体色が異なる別種のヤツもいる。 

 けっこう奥が深いのだ。

 今度八丈に行くことがあったなら、ガイドさんにではなくオトヒメエビにあたたかな眼差しを向けてみることにしよう。