体長 20mm
このエビが初めて水納島で記録されたのは、2000年9月のことだった。
当時手元にあった図鑑にはそんなエビなど掲載されておらず、もちろんながら私も目にしたことはなかった。
なのでだんなが「ハサミ脚が赤っぽい、見たことがないカクレエビみたいなのがいた」と、自信なさげにポツリとつぶやいたのを聞いても、どうせ見間違い、勘違い、筋違いのどれかだろうと高をくくった。
なにしろ崖状になった壁面の底の方、水深40m超の暗がりでのことだから、窒素でボヤけていたであろうだんなの脳では何がどう見えてもおかしくない。
B型人間は、自分で確認しないかぎり、それは「いない」ということと同義なのである。
ところがひと月後、その時だんなが撮った写真の現像が上がってきてビックリ!
どう見ても図鑑ですら観たことがないエビじゃないか!
< だから最初からそう言ってんじゃん……だんな談。
滅多に訪れない場所だけにそうそうチャンスは無いので、だんなの言うことを信じ、時をおかずたて続けに何度も再訪すればよかった…と後悔しても時すでに遅し。
発見から現像までひと月もかかっているとなれば、ただちに再会!できるはずもなかった。
随分経ってからなんとか最初の発見場所を再訪するチャンスを得たので、もちろん確認しに行ってみた。
すると、だんなが発見したという場所の周辺には複数個体がいて、ようやく私も初確認。
ただしオシャレカクレエビなどに比べると遥かに警戒心が強くすぐ引っ込んでしまうため、長居しづらい深いところでじっくり撮るのは難しいことを知った(下の写真は別の時に再びだんなが撮ったもの@2004年5月)。
その頃世に出ていた「海の甲殻類」(初版)にはこのエビの写真が掲載されてたものの、「ホンカクレエビ属の1種」とあるのみで、他の多くのエビたちと同様、「今後の詳細な研究成果を待ちたい」とあった。
その研究の成果は、2013年に刊行された「サンゴ礁のエビハンドブック」で明らかとなり、晴れて学名も和名も揃った既知のエビとして掲載されている。
その名もライデンカクレエビ。
その図鑑で掲載されている写真の撮影地西表島では随分浅いところで観られるようなのに、あいにく水納島ではそのような水深で出会えない。
そのため再会の機会はなかなか訪れなかったのだけど、2020年の5月に、ようやくその姿を再び拝むことができた。
水深25mほどの砂底にある根で、ニクイロクダヤギに暮らしていたライデンテナガカクレエビ。
狭苦しいニクイロクダヤギの枝間にいるエビなんていったら撮りづらいこと甚だしいとはいえ、水深40m超に比べれば多少は粘る時間もある。
おまけにこの子はひと月近く同じ場所に居続けてくれたから、初遭遇から20年超の時を経て、なんとか私も記録を残すことができたのだった。