エビカニ倶楽部

サンゴテッポウエビ

体長 20mm

 「ウミシダで暮らす生き物たち」も候補のひとつにしていた私の卒論のテーマは、巡り巡って結局サンゴに住んでいるエビやカニということに落ち着いた。

 対象のサンゴはリーフ上に多く見られるものだったこともあり、結局素潜りで済むこととなったため、当初目論んだ「ダイビングと勉学の合致」という野望は果たせずじまいだったものの、卒論でつき合いが深まったおかげで、その後もサンゴに住んでいるエビやカニはいつも気にかけている。

 そのため潜っている時にサンゴの枝間を覗いては、一人ウヒヒとほくそ笑んでいたりする。

 サンゴテッポウエビは、サンゴに住んでいるエビの代表選手で、サンゴ礁が健全であれば、個体数は多いからフツーに出会える。

 ただしサンゴならなんでもいいというわけではなく、ハナヤサイサンゴという種類をえり好みしている。

 迷路のように入り組んでいるハナヤサイサンゴの狭い枝間は、サンゴテッポウエビにとってはれっきとした縄張りで(独占しているわけではない)、試しにハナヤサイサンゴの枝間にワリバシのような異物をつっこんでみると、サンゴテッポウエビはポール牧に勝るとも劣らぬ大きな指パッチンの音を発して割り箸を威嚇する。

 「テッポウエビ類」とは、この「パチン」という音を出せるハサミを持っているエビの総称だ(全部が全部サンゴテッポウエビのように指パッチンが得意というわけではないみたいだけど)。

 健全なサンゴが広範囲に広がるところで潜っているとき、プチプチプチプチプチプチ……という音が聴こえる。

 実はこれはテッポウエビ類が発する指パッチンの音で、白化やなにかでサンゴが壊滅してしまっているところではけっして聴こえない。

 イギリスの大学がグレートバリアリーフで面白い実験をしていて、健全なサンゴ礁上で録音した音を、サンゴが壊滅してしまっているところで流してみると、たちまち魚の種数が増えたそうだ。

 魚たちはサンゴ礁の「健全な音」によって住処やエサを提供してくれるサンゴの存在を認識している…という結論らしい。

 「サンゴ礁の音」で魚たちがたくさん集まれば、環境的風通しも良くなって、誰もいないことによって堆積してしまう老廃物などがクリーンにされ、ひいては新たなサンゴが定着する手助けになるからサンゴ礁の復活も早くなる…ということに利用できるかもしれないという。

 そんな「サンゴ礁フィルハーモニー」の重要な楽団員の1人と思われるサンゴテッポウエビは、普段はハナヤサイサンゴの中心付近で秘めやかに暮らしているため、なかなかそのお姿を拝見することができない。

 姿を見ることができても、ハナヤサイサンゴの枝間は狭く入り組んでいるものだから、ペアでいる様子はおろか、1匹の全身をちゃんと確認することすら容易ではない。

 ましてやそれを撮影しようだなんて、タンク1本をまるまる費やしても無理かもしれず、私には↓これが精一杯だ。

 でもこのサンゴテッポウエビの特徴は、なんといってもその表情。

 眼の後ろ側の黒い模様がなんだか眉毛のようで、眉毛と見立ててしまえばこのエビのイメージは一変する。

 この顔で、おまけに指パッチンですぜ…。

 たとえ全身は観られずとも、この顔さえ見られれば、なんだかシアワセ……。

 このエビの魅力に気づいてしまえば、きっとアナタも、サンゴの枝間を覗いてはムフフ…と笑う不気味なヒトになることだろう。