甲幅 3mm
サンゴの枝の端々が、ところどころ手を合わせるような感じで丸く膨らんでいることがあるのをご存知だろうか。
ハナヤサイサンゴやショウガサンゴ、トゲサンゴ(いずれもハナヤサイサンゴ類)でよく観られ、ハナヤサイサンゴやショウガサンゴの場合はハンバーガーのようにしか見えないからわかりづらいかもしれない(↓これはショウガサンゴ)。
その点トゲサンゴでは、ホントに手を合わせているように見える。
気にしなければ、「そこだけサンゴが変形しているのね…」で済むところ、気になってその中をそっと覗いてみると…
…何かいる。
正面から観てみると…
…両の手に優しく包まれるかのように、小さな小さなカニさんがいた。
拡大。
サンゴヤドリガニだ。
このサンゴの膨らみは「カニこぶ」と呼ばれているもので、本来こうなるはずではないサンゴが変形している状態。
サンゴは異物があるとそれを取り込むように成長する性質があるのだけれど、このカニがチョコンとつくことによってサンゴはまず2又に分かれはじめる。
その後カニがサンゴの成長をうまくコントロールして、合掌している手のような形になるよう育てているのだそうだ(2又に分かれ始めた頃だとカニさんはほぼ全身を晒しているのだろうに、なんで誰にも襲われないんだろう?)。
トゲサンゴだと出入りしやすそうな間口なのに対し、ハナヤサイサンゴだと…
…2度と出られないんじゃね?ってくらいの形状になっていることもある。
サンゴヤドリガニたちは、メスはずっとサンゴハウスにいたままで、繁殖時にはそれより小さめのオスがメスのもとに通ってくる…
…という話を聞いたか読んだかしたことがあるような気がするものの、私の記憶のことだからひょっとすると別の生き物の話かもしれず、安易に信じてはいけません。
トゲサンゴは成長が早いから家づくりには便利なのか、場合によってはカニこぶだらけのトゲサンゴも観られる。
カニこぶを覗けばいつでも中のカニさんの姿を見ることができるというわけではないので、このカニこぶたちすべてにカニが住んでいるのかどうかはわからない。
今でこそサンゴヤドリガニたちはこのようにサンゴで家を作って宿るカニである、ということを知っているヒトは多いけれど、「カニ」といえば食べるものだったその昔は、一部のヒトを除き誰もその存在に気づいてはいなかった。
幸か不幸か私は卒論でサンゴに住まう甲殻類を多少手掛けていたこともあって、80年代後半時点ですでにその「一部のヒト」だったりする。
当時が今のようにデジタル撮影機器がフツーに使える世の中だったら、卒論ももっとビジュアル系で楽しめるものになったろうになぁ…。