(Phycocaris simulans)
体長 8mm
私の知るかぎりでは、このエビの図鑑初登場は2003年に刊行された「エビカニガイドブック2久米島編」だった。
珍奇なその姿は是非観たいところだったのだけど、例によって思い込みの激し私はこのエビは死サンゴ石の下に隠れ潜んでいるエビだと思い込んでいた。
当時すでに「石の下の環境保護協会」を1人で発足させていた私は、遊びで潜っている時に石をひっくり返して珍しいクリーチャー、略して珍クリを探すことを潔しとしなくなっていたため、石の下にいるんじゃ自分には縁がないもの、と諦めていた。
ところがそれから8年経った2011年、フィコカリス・シムランスという学名カタカナ表記が広く知れ渡るようになっていた当時、すでに変態社会人として頭角を現しておられたゲストのかねやまんさんが、水納ビーチでこのエビをご覧になったという。
それも海藻にまぎれて!!
このエビって、石の下にいるんじゃなかったの??
かねやまんさんの報告を受けるなり、俺も撮りたい!と潜っただんなが発見したのは、図鑑で見知っているシムランスの姿とはいささか異なるエビだった。
当時はだんなも、まだこんな小さな生き物をサーチできていたのだ。
1cmに満たないというシムランスよりもさらに小さく3mmほどだったというし、特徴的な毛(?)が生えていないところからして、シムラじゃないならカトちゃんだ!とばかり、「カトチャンス」と勝手に名づけていただんな。
でもその目をよく見ると…
…シムランスと同じマツ毛(?)だらけであるところをみても、これはシムランスのチビチビなのだろう。
チビには出会えたものの本家(?)シムランスと出会うチャンスは訪れないまま、月日は流れた。
その頃はフィルム用の一眼レフが使用不能、かといってデジイチも無しだったので、記録する手段がないため個人的に盛り上がれなかったのだけど、2012年の秋に当方のボートが台風でえらい目に遭ってしまい、修理のため長期入院することとなってしまったおかげで(?)、その年のオフシーズンはいつになくビーチで潜る機会が増えていた。
おりよくその頃にはだんなのお下がりのデジイチを使えるようになっていたから、久しぶりに「エビエビカニカニ…」眼になってビーチで潜っていたときのこと。
「ナニか」の出現を期待しつつ、ウミヒルモという海草を指示棒でなぞってみた。
すると、ゴミにしか見えない藍藻の塊のようなものが、
ふわわわわーん、ぽよよよよーん
という感じで漂いだしたではないか。
そのサイズがサイズだけに、手にしていたのがコンデジだったら完全にスルーしていただろう。ところが私の手には、まさにこういうものを撮るためにある105mmレンズが!
ヌカヨロコビではないことを確かめるべくゴミのようにしか見えないモノをよくよく見てみれば、1対の眼のようなものが見える。
そしてその藻状の塊は、しばらく漂ったのちに再びウミヒルモの上に着地した。
そうっと近寄って撮影開始。
ファインダー越しに眺めてみてようやく、それがゴミでも藻でもなく、ウワサに聞くシムランスであることを確信した。
よくもまぁかねやまんさんは、こんなエビを即座にエビと認識できたものだ……。< それが変態社会人。
というわけで、存在を知ってから初遭遇まで随分時間がかかったものの、その後は砂地のポイントに広がる小さな藻場でもフツーに(といってもサーチしなきゃならないけど)出会えることがわかり、探せばたいていポコポコと観られるくらいだから、個体数が少ないわけではなさそうだ。
今世紀になるまで図鑑に掲載されることがなかったのは、あまりにも小さく、そのうえカモフラージュ効果抜群なので、単に誰も気づかなかっただけなのだろう。
逆に言うと、このような小さなエビまで表舞台に引きずり出してしまう変態社会の情熱のすごさ、ということか。
コンスタントに見つけられるようになって10年近く経つと、それなりに画像が蓄積してくる。
どれも似たり寄ったりの毛むくじゃらなエビでしかないものの、冒頭のように並べてみると、その色合いにはいろいろあることがわかる。
英名でヘアリーシュリンプ、すなわち毛深いエビ。ただし毛深いといってもおそらく体毛ではなく、生息場所的に体に藻が生えてくるのだろう。
なので、↓こんなに剛毛君もいれば…
冒頭の4枚並んでいるうちの右端のようにアッサリしているものもいる。
小さければ藻が生えそろっていないのは当然で、先ほどのカトチャンスのほか、↓このチビなんて…
…まったく別のエビのよう(ホントに別のエビだったらすみません…)。
とまぁこんな具合いなので観ているといろいろ楽しめるシムランスなのだけど、何度も言うようにとにかく小さい。
なにしろオトナでさえ、ウミヒルモの葉と比してこれくらいでしかない。
葉のサイズは楕円の長径でせいぜい2cmだから、クラシカルアイではシムランスに動いてもらわない限り存在を察知できないと思われる。
それでもどうしても観たいという方は、気長に藻場や海草密生地帯に佇み、指示棒でやさしくそっとなでて、シムランスがポヨヨヨ~ンと漂いだす姿をご覧ください。
その姿のディテールは、撮った写真で後刻楽しむしかないですけどね…。