甲長 20mm
3才くらいの頃に父親に買ってもらった小学館の動物図鑑と昆虫図鑑は、10才くらいまでの私の大切なタカラモノのひとつだった。
図鑑がタカラモノになるくらいだから、小さい時分には、天気が良ければたいてい近所の草むらや川に遊びに行っては昆虫やらカエルやらを捕まえ、それらを家で飼っていた。
今考えるとなんて寛大な両親だったのだろうとありがたく思う一方、我ながらなんて変な女の子(!?)だったんだろう…と思ったりもする。
そんな私にとって、毎年家族で内房へ繰り出す潮干狩りが、瞳キラキラ必至のビッグイベントだったのはいうまでもない。
何が楽しみって、そりゃあイソギンチャクやらヒトデやら、海なし県の埼玉では絶対にお目にかかれない動物を捕まえられること。
潮干狩り本来の目的であるはずのアサリには目もくれず、必死になってバケツにあれやこれやのの生き物を集めたものだ。
その中にはヤドカリさんたちの姿ももちろんあったものの、小さいものばかりで、図鑑で目にして以来憧れていた「イソギンチャクを貝殻に付けているヤドカリ」には、結局巡り会えずじまいでオトナになってしまった。
幼少時の悔しさを引きずっていたからだろう、オトナになって初めてソメンヤドカリに会ったときは大感動!
…と思ったら、それはよく似た種類のサメハダヤドカリだったようだ。
いずれにせよイソギンチャクを殻に付けるヤドカリたちは基本的に夜行性だから、昼間の潮干狩りで探し求めても、出会えるはずはなかったのだった。
あいにく水納島の日中は、特に砂地のポイントは大雨などよほどのことがないかぎりずっと明るいため、日中にソメンヤドカリに遭遇する機会は少ない。
それでもたま~にチャンスはあるので、明るい光のもとで撮ることもできるのだけど…
殻についているベニヒモイソギンチャクは、いつも沈黙を守っている(ヤドカリのそばの円盤状のもの)。
その点ナイトダイビングならかなりフツーに出会えるし、ベニヒモイソギンチャクも開いていることが多いのだけど、梅雨時の今にも雨が降り出しそうな曇天時など海中が暗くなる時なら、日中でも…
全開。
ちょこちょこ出会えることがわかってくると、なまじ子供の頃から憧れていたものだから、童心に帰ってついちょっかいを出してしまう。
といってもヤドカリ自体ではなく、イソギンチャクの方だ。
「イソギンチャクを貝殻に付けているヤドカリ」のイソギンチャクは、イソギンチャクであればなんでもいいというわけではなく、ソメンヤドカリの場合ベニヒモイソギンチャクと決まっているらしい。
このベニヒモイソギンチャクは、いじくり回すとピンク色の糸状のものを体の脇からニョロロ~ン…と出すのだ。
さきほどの日中出会ったソメン君の貝殻でも…
ニュルニュルと「紅紐」が出てきている。
そんなことを知ってしまったら最後、触らずにはいられないでしょう?
…と共感を強要しつつ、このイソギンチャクの刺胞毒はけっこう強烈らしいので、くれぐれもお気をつけください。
それにしてもこの両者の関係は、ベニヒモイソギンチャク専属のソメンヤドカリなのか、ソメンヤドカリ御用達のベニヒモイソギンチャクなのか、どっちなんだろう?
ソメンヤドカリが宿替えをする際には、絶妙なテクニックでイソギンチャクを旧貝殻から剥がし、新貝殻に付け替える…ということは図鑑等で説明されてはいる。
では、最初の最初はいったいどこからイソギンチャクを調達しているのか、ということについては誰も教えてくれない。
専用のベニヒモイソギンチャク採集場があるのだろうか…。
…という興味を持ってあらためてソメンヤドカリ(と私が思っているヤドカリ)の写真を見てみると、不思議なことに気がついた。
大きく成長している↑このソメン君が宿にしている貝殻には、どこにもベニヒモイソギンチャクが見当たらない。
たまたまいろいろなアングルから撮っている別カットがけっこうあったので、貝殻のどの部分にもイソギンチャクがついていないことは明らか。
こんなに育っているのにイソギンチャクゼロって、イソギンチャク争奪戦を繰り広げて負けてしまったのだろうか。
それとも…全然種類が違うとか?
↑これがたとえソメンヤドカリじゃないとしても、イソギンチャクを貝殻に付ける系統のヤドカリさんであることは間違いないから、いずれにしても不自然ではある。
その点チビターレだと、小学生のピアス同様、イソギンチャクをつけるなんてまだ早すぎる、ということなのかもしれない。
砂粒に比してみても明らかなように相当小さいプリティベビーだから、この貝殻に見合ったイソギンチャクなどおいそれと探せるものではないのだろう。
ちなみにこのチビターレ、めちゃんこカワイイんだけど…
ホントにソメンヤドカリですかね?
これよりもう少し成長しているチビがいて、これまた小さいからイソギンチャクなどまだ早い…
…のかと思いきや。
しっかり2つも付けていた(ヤドカリの左右に1つずつ)。
こうなるとイソギンチャクの有無は成長段階には関係なく、単に個体ごとの運不運ということなのかもしれない。
椅子取りゲームみたいに、イソギンチャク争奪戦を繰り広げた果てに、ウィナーは↓こういうことになっているのかな?