体長 10cm
小さな水納島には、ご存知のとおり川や池などの陸水系がない。
埼玉の実家で過ごしていた子供時代の水場のフィールドといえば川や池だったから、ときどきふと実家の近くを流れていた川を懐かしく思い出す。
これもひとつの無いものねだりなのだろう。
小学生の頃、学校から帰ると真っ先に目指したのは、草むらもしくは河原だった。
その河原には本流から分かれた流れがいくつかあって、流れが淀んで落ち葉が溜まっているようなところを探せば、たいていアメリカザリガニを見つけることができたものだった。
アメリカザリガニのなかでもひときわ巨大なオスには特別の呼称があり、
「まっかちん」
と呼ばれていた。
生き物好きの子供にとって「まっかちん」は水辺の王的ヒーローだから、子供の頃の私はそれを捕まえるために全身全霊を傾けていた気がする。
そんな「まっかちん」を彷彿させるのが、ショウグンエビだ。
砂地の根の暗がりを覗き込むと、体のわりに大きなハサミ脚をチラチラと見せつつ潜んでいるショウグンエビ。
暗がりラブだからライトの光は大嫌いなので、弱めに光を当ててみると、大きなハサミ脚も体もぜ~んぶ真っかっかであることを知る。
10cmほどあるから海中では15cmほどに見えるので、貫禄たっぷりのその姿はまさにまっかちん。
おまけにザリガニには無い剛毛がハサミ脚や背中に密生していて、ワイルド感もたっぷりだ。
ちなみにこの剛毛は、暗がりをバックにして光を当てると、まるで火花が散っているかのような煌めく輝きになる。
剛毛ビューティまっかちん。
暗がりの奥に潜んでいるわりには、ショウグンエビの脱皮殻を見る機会は多く、その脱皮殻を見てみると…
剛毛もそのままついている。
ってことは、この剛毛は殻の一部ってことになるのか…。
立派なサイズのまっかちんを目にしても、さすがに子供時代とは違い、「捕ろう」が「撮ろう」になっているので、カメラをサッと向けてみる。
するとその気配を敏感に察知するのか、まっかちんはスルスルスル…と後ずさって奥に引っ込んでしまう。
ワイルド感をほとばしらせつつも、警戒心は強いまっかちんなのである。
まだ水納島に越してきたばかりののどかな時代のあるときのこと、実験と称し、昔とった杵柄でザリガニ釣りを真似て紐にソーセージを付け、ショウグンエビの目の前でプラプラさせてみた。
すると、見事に全身を出させるのに成功した…
…のだけれど、危険察知能力に優れたショウグンエビ君は
「これはおかしいぞ」
と思い直したのか、すぐさま穴に戻ってしまったため、結局体半分しか撮影できなかった。
そんなヤラセに頼らなくても、ショウグンエビがやる気になっている時はかなり活発で、スルスル前後移動を繰り返しながらも暗がりの表側近くまで出てくることもある。
こういう時に慌ててライトを当てたりするとたちまち奥に戻っていくから、チャンスの時こそ慎重に動かねばならない。
でもたとえいったん奥に引っ込んだとしても、ジッと待っていると再びスルスルスル…と出てきてくれるから、とにかくジッと待っていればいいみたい。
なかにはライトを当てていても動じない子もいる。
やはりその動きは活発だ。
けっこうナワバリ意識も強いようで、そばまで近づいてくるスザクサラサエビを追い払ったりもするまっかちん。
アメリカザリガニと違ってショウグンエビは大も小もみな「まっかちん」で、ハサミ脚のサイズにさほどのインパクトが無い小さめの子もやっぱり真っ赤。
でっかいものも小さい子も単独でいることのほうが多いと思うのだけど、恋の季節なのだろうか、たまに2匹でいることもある。
普段は前後スルスル動きしかしていなさそうに見えて、なにげにペアになっているなんて、ニクイぜまっかちん。