体長 12mm
テヅルモヅルという言葉を聞いて、その生き物の姿を正しく思い描ける人は、よほどのヘンタイ的オタク人間だと自覚してもらわなければなるまい。
それほどこの生き物は、人知れずひっそりと暮らしているのだ。
絡まった紐のように見える白いものがテヅルモヅルで、ヒトデやナマコ、ウミシダと同じ棘皮動物の仲間だ。
知っているだけでヘンタイ扱いされるほど、日中のダイビングではなかなか出会えないこのテヅルモヅルながら、ナイトダイビングをすると彼らの本来の姿を見ることができる。
岩の上の方に這い出してきて、まるで「魅せられて」を歌うジュディ・オングのようにモジャモジャの腕という腕をパァーッと広げ、エサをゲットしているのだ)。
日中見えている部分は、彼らの体のほんの一部分であることがわかる。
テヅルモヅルの種類は様々で大小にもいろいろあるけれど、この白黒のタイプは広がった時のサイズは60~70cmほどあり、海中では1mくらいあるように見えるから、まさに夜の女王といった貫禄。
その昔一世を風靡した中村征夫氏の写真集「海中顔面博覧会」でも、「シルクロード」というタイトルでこのテヅルモヅル(の触手部分)が登場している。
それを真似ようと、まだニコノスV+35mmレンズ+クローズアップセットで頑張っていた90年代初めころ、ナイトダイビングで赤茶色のテヅルモヅルを発見し、写真をパシパシ撮った。
その後現像された写真を見ていたら、一部の写真にチラッとながらもなんとエビが写っていた。
それが心霊写真だったら身も凍るところだけど、見たことがないエビだったから心躍ったのは言うまでもない(↑この写真は当時のモノではなくイメージです)。
ただ残念ながら、チラリと写っていただけだからピントがあっているはずもなく、心の片隅でいつか再会したいと思いながらも、これまでその機会がなかった。
それが新世紀になって早々の2001年に、ようやく巡り会うことができた。
テヅルモヅルの色が多少異なるからだろうか、以前に見たものとは体の色が違ったけれど、紛れもなく「いつか見たあのエビ」だ。
ただでさえフクザツな形状の触手にいる小さいエビなど撮りづらいというのに、光を嫌うテヅルモヅルはライトを当てると身をよじって穴へ入ろうとしてしまうし(存外動きは素早い)、光が無いとピントを合わせられないから、数枚撮るだけでも大変だ。
それでも、あのころにくらべたら格段に進化した撮影機材と、撮影技術(?)を駆使して、どうにか撮ったのが↓これ。
冒頭の写真は、↑これを無理矢理拡大したものです、ハイ。
技術を駆使して撮ったというわりには、尾が丸まっているポーズになっているから、ピンボケ写真ながら全身が写っているものを観てみると…
尾を伸ばしてもずんぐりむっくり体型だ(背景が緑色なのは、テヅルモヅルがポイントブイ用のロープを保護するホースに乗っていたため)。
この機会に是非アカデミズム方面の最新情報を知りたいと思い、当時ちょくちょくお世話になっていた奥野淳兒先生に見てもらったのだけど、さすがのエビカニ大家でも2001年当時では「お手上げ」とのことだった。
それから12年経ってから、例の「サンゴ礁のエビハンドブック」にも堂々登場、テヅルモヅルエビという実にわかりやすい名前がつけられていた。
図鑑やウェブサイトを見ればたちまち正体がわかってしまう便利な世の中ではあるけれど、便利な分、誰も知らない(かもしれない)エビを見つけたヨロコビはなかなか味わえない。
今から思えば不便だらけに見えるかつての世の中も、それなりに魅力的な世界だったのだ。