体長 6cm
水納島に越してきてからさほど時をおかず、ビーチの中やリーフ際すぐの砂底に、直径15mmミリほどの筒状の穴が開いていることに気がつくようになった。
よく見てみると、穴の壁はきめ細かくきれいに形成されており、穴はほぼ垂直に、少なくとも10cmくらいは掘られている。
誰かよほどヒマな人が塩ビパイプを突き刺して引っこ抜いてでもいないかぎり、明らかに生き物のシワザっぽい。
はて、この穴はいったい誰の穴なんだろう?
…と、その場では頭の上に「?」マークをいくつか並べて首をひねるのだけど、エキジットするとすっかり忘れてしまっていた。
再び似たようなところで潜って同じような穴を見つけ、そうだったそうだった、今度こそ調べよう!…と心に誓っても、海から上がるとまたすっかり忘れてしまっている、というパターンを繰り返す。
他にもいろいろあるそういうちょっとした「?」がいまだに解決していないのは、エキジットするたびに忘れているからにほかならない。
ただしこの穴のナゾは、やがて明らかになる日が訪れた。
前世紀のあるとき、その穴にはエビらしき生物が住んでいる、という話を仄聞する機会があったのだ。
なに?……エビ!?
そうなると、エビカニラバーとしては黙ってはいられない。
ウソかマコトか、穴に割り箸を突っ込むと少しだけ顔を出すというので、早速実際にやってみると、別に割り箸でなくとも何か異物を穴に少し入れるだけで、ヒョコッと顔を出してくれた。
おもしろいのでウリウリウリと何度もやると、さすがにイヤ気がさすのか反応が無くなってしまった。
どうやら、「お、何かおいしいものかな?」という期待を抱いて穴から出てきていたようだ。
その後調べてみたところ、このエビらしきものの正体はトゲアナエビであることがわかった。
ちなみに、トゲアナエビという名が昔から広くあまねく知られているというのに、近頃ではヤハズアナエビなる名が勢いを増しているようで、アカデミック変態社会の事情により、やがてヤハズアナエビ1本に絞られる日が来るかもしれない。
そんなトゲアナエビの、さらに面白い習性をゲストに教えてもらった。
彼らは海藻が大好物なので、巣穴に海藻を持っていくと、たとえ身を潜めていても
ヨヨヨ?
とばかりに顔を出し、海藻をつかんで巣穴に引きずり込むというのだ。
彼らはほとんど目が見えないということもあるのだろう、直接手渡しできるという。
当時そのゲストが足繁く通っておられた串本あたりではすでに定番のお遊びになっていたようで、おそらく串本が発祥の地(?)と思われる。
そんな話を聞いてしまえば、居ても立ってもいられない。
さっそくやってみた。
ホントだ!!
なんだかE.T.の指タッチにも似たコミュニケーションがとれたような、妙な達成感。
その様子を動画でも…
トゲアナエビはビーチの水深2mに満たない砂底でもよく見られ、夕方に自主的に穴から顔を出しているのを見たこともある。
もしかすると日が暮れればノソノソと這い出てきて、海藻を求めて夜な夜なあたりを徘徊しているのかもしれない。
それにしても、この姿形とハサミ脚で、いったいどのようにしてピッタリ円筒形の巣穴を作っているんだろう?
今ではトゲアナエビと海藻で遊ぶ動画や画像はたくさん観られるというのに、巣穴をどうやって作っているか、という情報はいまだに見当たらない…。