「徒然海月日記」から海の話が含まれている日記のみ抜粋したバックナンバーです

2010年 4月11日(日) 晴れ

無風 べた凪ぎ 水温22度

 今日のささやかなヨロコビ。
 その1
 雑貨屋さんにいらした、エレガントな装いの大阪弁の若い女性が、シャアザクに反応してくれて、写メで写真まで撮ってくれた。
 ここまで世代を越えると、同志を得た思いすらする。

 その2
 その雑貨屋さんの今日の売り上げが、今月初めて大台を超えた(「大台」を過大評価しないように)。

 その3
 タコをゲットした。

 売り上げがあって獲物までゲットしてしまったら、これ以上ほかに何を望めというのだ。

 なのにそのうえその4
 アブラヤッコの図鑑写真が撮れた。

 アカハラヤッコやナメラヤッコ、ソメワケヤッコといった小型のキンチャクダイは、アブラヤッコ属に含まれる。
 総じてチョコマカと岩陰に逃げ隠れするので、よく目にするわりにはちゃんと写真に撮っていない…というタイプの魚たちだ。
 なかでもこのアブラヤッコときたらかなりの照れ屋さんで、いた!と思った時には岩陰に隠れてしまう。僕がこれまでちゃんと写真を撮ったことがないのも無理はない。

 ところが、この日出会った彼は、これまで観てきたアブラヤッコとは比べ物にならないくらいにフレンドリー君で、しかもやたらとでかい。
 その泰然自若の泳ぎっぷりといい、サイズといい、そして黄色混じりの色合いといい、きっと老成魚なのだろう。

 ところで、英名のキーホール・エンゼルというのは、白い模様を鍵穴に見立てているのだと容易に想像がつく。
 しかしアブラヤッコの「アブラ」っていったい何??
 ひょっとして、老成魚になると体表に滲み出てくる、この黄味がかった色合いを「膏」に見立てているのだろうか。

 …というか、これって、ハイブリッドじゃないですよね??
 この黄色、けっして画像処理ソフトのいたずらではない。海中で見てもこんな感じの色だったのだ。
 アブラヤッコって、老成すると黄色が出てくる……って話はありますか??

 ともかくこうして、ささやかなヨロコビに包まれた1日なのだった。

 さて、季節は春。
 何度も言っているとおり、春はウミウシ。
 特にこの時期は、ヒメダテハゼにスミゾメキヌハダウミウシがついていることが多い。

 ヒメダテハゼのヒレについた黒い物体がウミウシだと知った時は、海底にゴロゴロしている細長いウミヘビのようなものが、実はナマコだと知った時と同じくらい驚いたものだった。
 ところがウミウシと知ってから観るとウミウシ以外のナニモノにも観えないのだから、人の視覚による認識なんてものがいかに主観に左右されているかがわかる。

 ヒメダテハゼは他の共生ハゼに比べると、個体数が多いせいかなかなか強気で、無造作に近寄ってもそうそう引っ込まない。
 でもウミウシをつけている子は、ウミウシがついている時点でストレスを感じているためか、それともこの時期はもともと水温が低くて警戒ラインが厳しくなっているからか、わりとつれなく引っ込んでしまう。

 しかし今日観たコイツは相当我慢強かった。


ヒメダテハゼって、よく観ると背中にきれいな模様があるんですね。

 こうして観れば、黒い物体はどこからどう観てもウミウシでしょ。
 こんだけウミウシがでかいとさぞかし邪魔っけだろうに、流れに任せてウミウシが体の左右をユラユラ揺れ動いてもまったく気にする素振りを見せず、それどころかウミウシを背負ったまま、フラフラ〜ッと泳ぎ進むや、パクッと餌を食べてすぐさま戻ってきた。

 彼にとってのウミウシは、もはやアクセサリーのひとつでしかないらしい。たしかに、鼻ピーよりは邪魔にならないかもしれない……。

 これだけフレンドリーなのだから、ウミウシだけをアップで撮るとか、ウミウシの口の部分をクローズアップするとか、ハゼがアクビをするまで粘るとか、いろいろ撮り方を変えて遊べるはずだった。
 が、わりと深いところでタコと格闘してしまったため、すでに残された空気はなく、おまけに減圧が出ているとなれば、ヒメダテハゼに生命を懸けるわけにもいかなかった。

 タコゲットはヨロコビだったものの、ウミウシ付きヒメダテハゼともっと遊びたかった……。

 ヨロコビは、他のヨロコビを駆逐する。