「徒然海月日記」から海の話が含まれている日記のみ抜粋したバックナンバーです

2010年 7月23日(金) 晴れのち雨

南東の風 おだやか 水温28度

 今日も午後からぐずついた天気になってしまったものの、午前中は気持ちのいい青空が広がっていた。

 先日の3連休と次の週末に挟まれたこの平日4日間は、我々の唯一のサマーバケーションの日々。なので今日も、雑貨屋さん開店の前に一本遊びで潜ってきた。

 桟橋まで行くと、今日はさすがに日帰り客が多そうな気配。
 そうはいっても、夏休みに突入しているこの時期にお客さんの数がこれだけしかいないというのは、6、7年前には考えられないことだ。

 連絡船や日帰り客を対象にしている各業者にとっては困った話であることは間違いないものの、申し訳ないけど我々的にはとっても快適なのでうれしい。
 ここだけの話、おそらく島内各民宿だって気持ちは同じと思われる。

 だいたいこんな小さな島に、1日500人も600人も観光客を呼び込んで、さらに右肩上がりを…なんて話がそもそもおかしかったのである。
 ナニゴトにもホドというものがあるのだ。

 自分が来ている島の名前すらおぼつかないような日帰りツアー客を大量に呼び込んでいたずらに喧騒を増大させ、この島を愛して島内で滞在してくださっている方々に不快感を与えてしまう、なんてのは、どう考えてもおかしいのである。

 世の不景気のおかげで、ここ数年その傾向はおさまっている。
 また、大勢の皆様方のご協力をいただいて実施された砂移動のおかげで、ビーチはちゃんと砂浜になっていて、そこにホドホドの数のパラソルが。
 ひところに比べれば、マリンジェットを駆使したマリンスポーツを楽しむ人の数も減っているので、以前のようにひっきりなしにジェットの騒音に苛まれるということもない(一方では環境教育だなんだかんだと言いながら、マリンジェットを駆使しまくるメニューをこなし続ける修学旅行の気が知れない)。

 静かな島を求めて水納島を訪れてくださるご滞在客の方々にとっては、いい方向に向かっているといえる。

 が、一つだけ、昔に比べて大きく変わったことが。
 本島からやってくる、マリンスポーツ業者数の大幅増だ。

 島内に受付カウンターを用意している各業者のほかにも、自分たちのお客さんを自分たちの船で島に連れてきて、島に上陸させながらマリンスポーツを行う業者がやたらと増えているのだ。

 だから、全体的なお客さんの数は減っているものの、桟橋周辺にはやたらと業者の船が並び、連絡船や渡し舟が到着すると、桟橋上のあちこちでそれぞれの業者がお客さんたちに説明をする、という絵になる。

 これがうざったい。

 ……と、僕がもし、静かな朝のひとときを渚の風景に求めている島の宿泊客だったら思うことだろう。いや、そうでなくとも思ってるんだけど。

 ちなみにそれらの業者のほとんどは、島の人々がやっているバーベキューを利用したりパーラーで昼食をとったり、パラソルをレンタルしていたりするので、多少は島にお金を落としてくれてはいる。

 そういう意味ではビーチとしても、そういう付き合いをしてくれる業者さんはどんどんいらっしゃい、というスタンスであるらしい。ようするに、島を挙げてそういう状況を作っているわけだ。

 でもそれらの売り上げは、それら業者が島に来ることによって得ている大きな稼ぎに比べれば微々たるモノであることは確実で、いわばおすそ分け程度でしかない目先のほんの少しの利益のために、なんだかとっても大切なものを失ってしまっている気がする。

 だいたい、大勢のお客さんを相手にしたいのであれば、なんでマリンスポーツからなにから、自分たちで全部やってしまわないんだろう??
 当初からそういう目標で動いていれば、今頃島内の大きな産業として、島出身の若者たちの働き口の受け皿として………

 ……いかんいかん、このままいくとただのグチになってしまう。

 さてさて、大勢のお客さんとはまったく無縁の我々は、前述のとおり、喧騒に包まれ始める桟橋を尻目に、遊びで潜りに行ってきた。

 繁殖シーズンのピークを過ぎつつある海中は、いまだいろんな魚の幼魚たちでにぎやかになっている。
 早めにピークを迎えていたキンギョハナダイの幼魚の数は、2週間前に比べると圧倒的に減ってきたものの、砂地にはヤシャハゼがウジャウジャ状態になってきた。

 通常、ヤシャハゼなどの共生ハゼは、同種のペアで一つの穴に住む。
 ところが今の季節のように爆発的に個体数が増えてくると、テッポウエビに頼っている住宅事情的に需要と供給のバランスが崩れてしまうのか、こういうシーンがよく観られるようになる。

 ヤノダテハゼとヤシャハゼの異種ペア。
 ともにコトブキテッポウエビ(右下)を共生相手に選ぶためか、この異種ペアはこの時期目にする機会がチラホラある。

 ちなみにこのトリオと共生している居候がもう一人いる。

 昔からその存在は知られているのに、まだちゃんとした名前がついていない青いハゼ。
 ダイバーが近寄ると、同居者の誰よりも早く巣穴に逃げ込んでしまうため、なかなかそのご尊顔を拝む機会はないんだけど、どういうわけか写真の子は、よほど外界が気になったのか、出てきてはすぐ引っ込み、出てきてはすぐ引っ込みを繰り返していた。

 誰よりも素早く逃げ込むこの青いハゼも、ちょっとした状況によっては引っ込めないときがある。
 その「状況」とは……これだ。

 そう、切れの悪いウンコがついている場合。
 もちろんまったく引っ込まないわけではないんだけど、いつもだったら間違いなく引っ込んでしまうくらいの距離まで近寄っても、

 「ウンチつけたまま穴に戻りたくないんだよなぁ……」

 と逡巡しているのが見え見えで、彼が非常に困っている様子が楽しめるシチュエーションなのだ。

 ところでこのヤシャハゼの巣穴は、さすがこの季節、実はこういう状況になっていた。

 2世帯住宅。
 全員の瞳にピントを合わせたかったんだけど、瞳どころか、顔を出してもらうことすらかなわなかった……。

 右側のペアのほうが劣勢で、左側のやや大きなほうがエラそうにしていた。だから普段は右のペアはもっと遠くに離れているところ、僕が近づいているせいで、一応危険回避のために巣穴に近寄ってきている。
 でもこのあとすぐに、左のペアに追い払われていた。

 たしかに青いハゼ君にしてみれば、2世帯住宅のこんな巣穴の中にフンを持ち込むことはできないのだろう。巣穴近辺で右往左往していた彼の気持ちもわかる。

 このような、一つの巣穴に3匹以上のヤシャハゼというシーンは、この時期はけっこう目にする機会が多い。
 でも残念ながら、やがて季節が進むとそれぞれの巣穴では淘汰が進み、各巣穴はいつしかペアだけになっている。

 ヤシャハゼたちの世界では、みんなが「ホド」を知っているのだろう。

 ああそうか!
 業者だらけで非常にうざったい今現在のビーチおよび桟橋周辺の状況の改善のためには、いたずらに膨れ上がってしまったマリンスポーツ業者がどんどん淘汰されていけばいいのだ。

 ……え?はい、おっしゃるとおりです………。
 真っ先に淘汰されるのは、もちろんクロワッサンでしょう(涙)。