「徒然海月日記」から海の話が含まれている日記のみ抜粋したバックナンバーです

2010年 9月17日(金) 晴れのち時々雨

北東の風 徐々に荒れ模様 水温28度

 サンゴがここ2、3年で見る見るうちに成長し、リーフを広く覆い始めるようになって、白化後姿を消していた魚たちが戻ってきた、という話はすでに何度も書いている。

 テングカワハギ、ヤリカタギといった、サンゴを直接餌とする魚たちはもちろんのこと、デバスズメダイのように、子供の頃の住処として、生きているサンゴの枝間が欠かせない魚たちもかなり増えてきた。

 サンゴのポリプを必要とするチョウチョウウオたちはかなり種類を増やしているし、そのほか地味なところでは、サンゴの枝間に隠れる小魚を狙うマルクチヒメジやクギベラ、それに何気にサンゴをツンツンつついているクロベラやマナベベラといったベラたちも、最近はやたらとその姿を目にするようになっている。

 その一方で。
 秘かに姿を消し始めている魚たちもいる。
 なかでも圧倒的な喪失感を誇るのが、ハリセンボンだ。

 最近ゲストからふと尋ねられ、我々も気がついた次第。
 そういえば、ここひと月ほどハリセンボンの姿を見ない…。

 98年の白化の後、死に絶えたサンゴたちの表面はコケで覆い尽くされた。そして、そのコケを餌にしているサザエなどの貝類が爆発的に増えた。当時は島中がサザエフィーバーに沸いたものだった。

 ハリセンボンといえば、ご存知のとおり貝をはじめとする底生動物を餌にしている。とりわけ貝類は大好物らしく、目の色を変えて貪り食らう。サザエ類ともなれば、彼らの人生的ヨロコビの食事だろう。

 白化直後は、そんなサザエが爆発的に増えたのである。当然のように、ハリセンボンたちも爆発した。 

 なんと、10〜20匹前後が集団になる「ハリセンボン玉」があちこちで見られるほどに増殖したのだ。

 それはそれで「異常」ではあるものの、ハリセンボンといえば人気の魚。たくさん見られて困る人はいなかった。

 それから10年近く経ち、サンゴは復活し、サザエは減り………
 そしてハリセンボンもいつの間にか減っていた。

 おそらく今くらいがハリセンボンの「常態」なのだろうけれど、ハリセンボンが見たい!という方にいつでも苦もなくお見せできていたものが、かなり難易度の高いリクエストになってしまった。
 ここ1ヵ月に限っていえば、カメを見たい!というリクエストをかなえるほうが圧倒的にたやすい。

 そんなわけで、テングカワハギたちが普通種になりつつあるのとは逆に、ハリセンボンはレアな魚になっているのであった。